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GO! ララ、GO! (31)

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三十一 手柄は上司のもの

 プロジェクトが営業部にもたらす利益について説明すると、ウェイはララにピーターのところから必要経費を確保してくるよう指示した。ララはさらに各部門本部長に根回しを続けた。最終的に、全員の総意として「会社上層部がすでに『営業所設置に販売実績の下限を設ける』というポリシーを打ち出した以上は従わないわけにはいかない。それなら、第一に日常業務に関わる問題を解決し、第二に営業部の予算を増額してほしい。それをララの言う『利益』と考えよう」ということになった。

 「ゴリオ」ことピーター財務担当副社長から経費を奪取するのは容易なことではない。ララはレスターに経過を報告し、ボスに交渉の場に出てもらおうと考えた。しかしレスターはあの手ごわいピーターとの話し合いに二の足を踏んだ。

「ララ、よくやったな。信頼できる部下を持って嬉しいよ。この件は君に全権委任しよう。君の決定を私は全面的に支持する!」。

 ララは望みの綱を絶たれたが、何かにつけハワード社長のところに行くのも憚られたので、ピーターにつきまとってひたすら懇願と説得を繰り返した。彼はララにこの仕事を押し付けることに成功してひそかに喜んでいたのだが、ララがこの二か月で目に見えてやつれていくのを見て、少しは彼女に協力してやろうかと考えた。最終的に彼女の頼みを聞き入れ、これから閉鎖される営業所を管轄している部門に対しては現在の営業所賃貸料と固定資産予算の二分の一を販売経費として予算を付け直すことにした。

 ララは獲得した予算の配分について検討を加え、最も簡単な方法は各部門のheadcount(スタッフ数)に応じて均等割りにすることだと考えた。レスターにそう提案して最終決定を仰ぐと、レスターは難色を示した。

「そんなに簡単な問題ではない。営業部の予算はこれまで単純に人数計算で分配したことなどないんだ。市場のニーズや製品の特長、販売目標、利潤などの要素をすべて考えあわせて決めている。各営業本部長に意見を聞けば、きっとそれぞれ違うことを言うだろう。スタッフの多い部門は人数分を要求するだろうし、逆の場合は販売高で分配するよう要求してくる。下手をすればそれ以外の様々な配分案が出てこないとも限らない」。

「こちらで検討して配分案を出すことはできませんか?」

 レスターは少し考えた。

「焦らないほうがいい。下手をすれば我々が批判されることになってしまう」。

 具体的な結論は出ず、いたずらに時間ばかりがたった。彼女はレスターの思案顔を見て、これ以上ここにいても無駄だと悟った。

ララがウェイのオフィスの前を通り過ぎようとしたとき、ウェイに呼び止められて部屋に入るように促された。彼はララの元気がない顔を愛おしく感じて微笑みながら言った。

「どうだ? ピーターは手ごわいだろう。レスターに出てきてもらえよ」。

 ララは胸を張って言った。

「誰がピーターに負けたなんて言った?」

 ウェイはこれほど早く結果が出たことを知って、むしろ意外に思った。

「へえ、じゃあ経費はいくら取り戻せたんだ?」

 ララは彼に賃貸料と固定資産の予算の半分だと告げた。

「交渉の成果があったな。それはレスターがゴリオと交渉した結果か?」

 ララは手を広げ、「それは聞かないで」という動作をした。

 ウェイは俄然興味を持ったようだ。

「その様子だとレスターに何か言いたいことがあるようだ」。

 ララはすぐに警戒して言い返した。

「でたらめ言わないでよ! 私の足を引っ張るつもり?」

 ウェイは自分の勘が当たって得意になった。

「その言い方はないだろう。これこそ本音のコミュニケーションというもんだよ」。

 ララはため息をついた。

「ああ、ウェイ、官僚ってどういうものか知ってる?」

「杓子定規で逃げ口上がうまいやつ?」。

 ララは得意げに持論を述べた。

「ふん! 官僚の特徴なら、私は経験上よく知ってる――決定すべき事項については考え込む、難題に直面したら権限を委譲するやつよ」。

 ウェイは机を叩き、親指を立ててほめた。

「いいね、ララ! 改めて君の理論水準を見直さないといけないな」。

 ララはすっかりうぬぼれた。

「ふふん! 私はもともと優秀だもの! あなたに見る目がなかっただけよ」。

 二人で冗談を言いあってしばらく笑ったあと、ララは改めてウェイに頼んだ。

「ウェイ、他の二つの部門はスタッフが少なくない。でも、大口顧客部だけはスタッフが少なく一人当たりの売上高が高い。申し訳ないけど今回は私の案を呑んで予算を人数に応じて配分することに同意してくれない?」

 ウェイは彼女の期待のまなざしを見て、これ以上困らせたくない、さして大きな額でもないからと思い、あっさりと受け入れた。ララはさらに他の二人の本部長にも報告に行った。彼らにとってはグッドニュースだったのでもちろん文句の出ようもなく、ララは二人から感謝と称賛の言葉にあずかった。

 ララは喜び勇んでレスターの部屋に行き、営業部門の本部長全員が人数に応じた予算配分に同意したと報告した。レスターは彼女がたった二日で問題を解決したことにうろたえた。営業部長たちはいずれも一癖あるのに、何はともあれララは問題を解決したのだ。彼は満足し、部下を高く評価した。

「よくやった! いいチームワークだ!」。

 ララはデスクに戻って、さっそくパメラがまとめ上げた三エリアの報告書を検討した。おおよそ問題はなく、ララの顔には安堵の笑みが浮かんだ。パメラはララのそばに立って上司が報告書に満足している様子を見て取ると笑いながら言った。

「二日程リャンと一緒に仕事をして、昨晩十時過ぎにやっとNCエリアの資料整理がなんとか終わりました」。

 リャンの資料を全て整理してくれたとは実にありがたい。ララはパメラを褒め、自分は翌日早朝のフライトで発つので明朝は出社せず直接空港に向かうと告げた。パメラは上司に指示される前に的確に答えた。

「ご安心ください。関係部門は私がフォローアップしておきます。」

 ララはうなずいた。

「お願いね。私は先に失礼するけど、あなたも遅くならないようにして。最近は残業が多いみたいだから」。

「今日はたぶん十時までかかりそうです。私は何事も早めに手を打ちたいほうなので。今のうちに抜かりなくやっておけば、プロジェクト後期は余裕を持てます」。

 ウェイがララを夕食に誘いに来た。ララはシートベルトを締めながら聞いた。

「夜の付き合いとかないの? 営業本部長なのに」。

 ウェイは笑った。

「ララが上海にいるじゃないか。君がいなくなってから客の相手をするよ」。

 ララは上機嫌でウェイをからかった。

「ならよかった。明日には広州に戻るからあなたの仕事を邪魔しないで済む」。

「明日は空港まで送ってやるよ」。

「やめて、空港だと会社の人に見られちゃう。前に飛行機で口論になったとき、同じ機内にジョンがいたのよ。本当にバツが悪くて」。

「どのジョン?」

 マーケティング部本部長のジョン・ハンターだと聞いて、ウェイは黙り込んだ。何も言わない彼を見て、ララは面白半分に聞いた。

「ねえ、噂だけど、あなたはジョンとあまり気が合わないの?」

 ウェイは意味ありげに笑っただけで何も答えない。

「言わなくてもいいけど」。

 食事を終えて、ララはホテルのカードキーがバッグに入っていないことに気付いた。おそらくオフィスのデスクの上に忘れて来たのだろう二人は会社に戻ることにした。ウェイは車を一階ホールの裏口に停めてララに言った。

「ここで待っているからキーを取ってすぐに戻っておいで」。

 ララはうなずいて車を降りた。時刻は九時近く、社内ではまだ数人が残業しているが、パメラは席にいないようだ。おそらく既に仕事を終えて帰ったのだろう。ララは特に気にすることもなく、ルームキーを手に取って戻ろうとした。ふとオフィスの隅を見ると、パメラの部下のマギーが給湯室からデスクに戻ってきた。ララは不思議に思い、声を強めて言った。

「マギー、なんでまだ帰ってないの?」

 マギーは上司が戻ってきたのを見て、歩み寄ってきた。

「最近、営業所閉鎖プロジェクトの業務が山積みで、しかも急ぎの仕事ばかりじゃないですか。毎日のように残業しないと終わらないんです。でも、パメラに今週前半は残業しないで今日と明日は残業しろと言われました」。

 ララはマギーもこのプロジェクトに関わっていることを今まで知らなかった。パメラは数日前、マギーの手助けはいらないと言っていたはずだ。ララは納得できず、マギーのデスクに座ってパソコンをのぞきこんだ。見れば見るほど表情は険しくなった。

「この報告書のどこをあなたが担当しているの?」

「営業部との折衝で、データの取得と整理をすべて私がやって、書式はパメラが用意したものです」。

 ララはマギーとパメラがどのように仕事を分担しているのか尋ねた。

「彼女が私にタスク表をくれて、それには進捗状況の目安が示されているので、私はその通りに進め、完了したら彼女に確認してもらいます。財務部が持っているマーケティング部のデータを彼女がもらってきて、分類と分析は私が全てしています」。

 ララはその仕事はできるのかと聞いた。

「結構大変なんです。というのも、説明を聞いても分からないことがよくあるんですよ。間違えると怒られますし」。

 ララはマギーに注意した。

「またパメラの悪口を言いたいの!」

 マギーは急いで手を振って否定した。

「そんなつもりはありません」。

 マギーはララに近づいて言った。

「ララ、パメラは賢くて有能で、少なくともわかりやすい指示を出してくれます。彼女は仕事のやり方がわかっているんです。でも北京のリャンは全然ダメみたい。支離滅裂な指示を出すからサンドラ(リャンの部下で北京人事課課長補佐)たちは疲れきってるそうですよ。なのにパメラに負けず劣らず厳しくて、しかも理由もなく怒るらしいです」。

 ララは顔色ひとつ変えずに言った。

「そう? じゃあ、あなたたちはその件について課長と直接話し合った?」

 マギーは少し舌を出した。

「余計なことを言いました。すみません」。

 ララはウェイが下で待っていることを思い出して立ち上がった。

「マギー、あなたはなかなか良くやってる。今の仕事はあなたにとってはとても大変だろうけど、あなたを成長させるわ」。

 マギーははっきりと言った。

「わかってます。むしろもっとやりたいくらい」。

 彼女はこの仕事の付加価値が高いことを知っている。マギーは賢いとララは思った。そして念のためにマギーにくぎを刺した。

「今夜私が戻って来たことは誰にも言わないで、さっきの話もね」。

 マギーは機転を利かせた。

「もちろん言いません」。

 ララは彼女に目で合図をして去った。

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GO! ララ、GO! (30)


三十 「ずっと大切にする」

 ララは上海に着くとさっそく事前にアポイントを入れておいた数人の本部長と打ち合わせを行った。自分のデスクに戻ったときにはすでに勤務時間を過ぎていた。本社のパメラは彼女を待っており、北京のリャンと広州のヘレンも会社に残っていると言う。そこでララはオンラインで部内会議を行い、一時間でプロジェクトの進捗確認及び各担当者が現在直面している問題を一通り聴取することとした。パメラはすぐにリャンとヘレンをオンライン会議システムに呼び出した。最初はパメラの担当するECエリアだ。非常に順調に進んでいる。次にヘレン担当のSCだ。こちらもほぼ問題ない。最後にNC担当のリャンが報告書を提出した。ララは読み進むにつれて落胆が大きくなった。苛立つ気持ちを抑えていくつか質問すると、リャンの回答はますます辻褄が合わなくなり、ララが誘導しようとしても彼の頭は混乱するばかりで支離滅裂な答えしか返ってこない。ララはその様子にすっかりfrustrate(失望)し、今日はここまでにするので自分でもう一度よく考えて何か問題点があれば明日また聞くようにと言い、そそくさとオンライン会議を終えた。

 パメラはララが疲れきっているのを見てとり、自分が明日の朝いちばんでリャンの手助けをして業務をチェックすると自主的に提案した。ララはうなずいた。
 パメラは会議室を出てリャンとヘレンに電話をかけに行き、しばらくしてからララのところへ戻ってきた。二人と話がつき、彼女が全てのチェックを行ってから三エリアの業務報告をとりまとめて一両日中にララに提出することになった。ララはほっとして力が抜けた。ララはもうリャンの指導には完全にお手上げだったので、パメラがララの気持ちを推し量って自ら仕事を買って出てくれたのはありがたかった。苦難を共にする同志にララは思わず優しい気持ちになった。
「パメラ、最近残業は多いの?」
パメラはララの温情を感じ、声を和らげて答えた。
「多少は残業しますが、さほどでもありません」。
 ララは部下のマギーに仕事の一部を手伝わせたらどうかと提案したが、パメラはこのプロジェクトはセンシティブな問題を含むのでマギーに任せるのは不安だからやはり自分でやると言った。ララはそれもそうだとうなずいた。
「ECの報告書はよくできていたわ。お疲れ様」。
「それでは私はお先に失礼します、部長もあまり遅くまで無理をなさらないでくださいね」。

 パメラが帰るとすぐにウェイから電話があり、一緒に食事に行きたいが仕事はいつ終わるかと聞いてきた。
「今日はやめておく。疲れたから早くホテルに戻って休みたいの」。
 ウェイは疲労のにじむ声に胸を痛めた。
「でも食事はしないと。どこか近くで適当に食べよう。終わったらすぐにホテルに送るよ」。
 ララは無言だった。ウェイは重ねて言った。
「外は雨で気温も低い。この天気ではタクシーをつかまえるのに一時間はかかるだろう。食事くらいつきあってくれよ。最近いい店を見つけたんだ」。
ララはため息をつくだけで何も答えない。ウェイははっきり断られる前に急いで言った。
「じゃあそれで決まりだ。十五分後にロビーの玄関前に車をつけるよ」。
 ララがロビーを出るとウェイはすでに待っていた。ララは後部座席のドアを開けて車に乗った。彼女が助手席に座らないのは自分に対して何か不満があるときだということをウェイはすでに理解していた。ララが疲れている様子を見て、話しかけるのは遠慮し、ゆっくりと車を出した。ララは目を閉じてシートにもたれ休もうとしたが、ウェイが対向車に挨拶をしたような気がして急に警戒し、目を開き「誰の車?」と尋ねた。
 ウェイがレスターの車だと言うと、ララはびっくりして「レスターは私を見た?」と尋ねたが、ウェイは「どうだろう、わからないな」と正直に答えた。ララは心配そうな表情になり、それ以上何も言わなかった。ウェイはバックミラーに映るララをちらっと見た。
「横になって休めばいい。邪魔しないから」。
「いいの。こうしているだけで十分」。

 ウェイにはララの考えていることがよくわかった。今まで二人で一緒にオフィスを出たことがない。常に少し離れた場所に車を停めてララを乗せた。二人にはやはり人目に立つのはよくないという暗黙の了解があったのだ。ウェイはララをなだめるように言った。
「レスターに見られたところでどうってことないさ。雨でタクシーがつかまらなくて困っている君を僕がたまたま見つけてホテルまで送った。何もおかしくないよ。そんなに心配するな」。
ララはウェイに心の中を見透かされて何も言い返せなかった。

 食事を終えてホテルに帰るときもララはまた後部座席のドアを開けた。ウェイは彼女のやりたいようにさせ、余計なことは何も言わなかった。帰路、二人は話題を探すように当たりさわりのない会話をした。上海の冬は止まない雨が降る。ウェイは車を道のわきに寄せ、雨よけのある場所に停めた。ララは驚いたように聞いた。
「どうしたの? 車に何か問題でも?」
「ちょっと問題がある」。
 ウェイは車を降り、前から回り込んで後部座席のドアを開いた。ララは怪訝そうにウェイを見ていたが、彼は素早くララの隣に乗り込んで彼女を引き寄せて自分の方を向かせた。
「何するの! 乱暴ね!」
 ウェイは低い声で言った。
「乱暴だと言うならそれでもかまわない。僕のどこに不満があるんだ?」
 ララはウェイの手から逃れようとして体をよじり、大声をあげた。
「どうかしてる! 不満だなんて誰も言ってない」。
「よし。不満はないんだな。なら助手席に座らないのはなぜか答えろ!」。
「先に手を離して!」。
 ウェイは手を離そうとしない。ララは男の手を振り切れず、あきらめて体をよじるのをやめ、ウェイを睨みつけて尖った声で言った。
「私には助手席に座る義務でもあるの?」
 ウェイは何も言わず急にララを抱き寄せた。ララはウェイの胸の中でわずかに震えながらも一度にいろいろな事を考えてしまう彼女の頭には突然「南の娘に北の男」という諺が浮かんだ。ララは突然、ウェイを信じたいと強く思った。しばしの沈黙の後に、ウェイの声が聞こえた。
「ずっと、大切にする」。
 ララは何も言わない。ウェイはララを放して彼女の顔を見つめて答えを待っていた。ララは無理やり気持ちを落ち着けてウェイを見上げ、お決まりの策略で話の腰を折ろうとした。
「私にセクハラで訴えられるとは思わないの?」
 ウェイは怒気を含んだ声で言った。
「僕は若造じゃない! 浮ついた気持ちじゃないのがわからないのか。どうしてぶち壊そうとするんだ。互いの気持ちはわかっているのにセクハラなんて!」。
 ララは「互いの気持ち」ということばを聞いて、ある女性の姿が脳裏に浮かんだ――長い巻き毛、彫刻のような面立ち――ララの顔色がさっと変わった。彼女のことをウェイに直接確かめようと思ったことがあるが、結局は言い出せなかった。もしそれを口にすれば、自分と彼の関係を私生活にまで干渉する段階に進展したことを認めることになると思ったからだ。ウェイは彼女の気持ちの変化を敏感に察知し、こう問いかけた。
「僕のどこが気にいらないのか教えてくれ。僕はどうすればいい?」。
 ララは下を向いた。
「違うの。まだわからない。会社は社員同士のこういう関係を嫌がると思う。それに『雉も鳴かずば撃たれまい』と言うし」。
 ウェイの内心は腹立たしさと可笑しさが半ばしていた。
「もっといいことわざはないのか。誰がキジで誰が猟師なんだよ。僕たちは直属の上司と部下でもないのに」。
 ララは何も言い返せなかった。ウェイは黙り込んでいる彼女から視線を離して前を向き、少し考えてからまたララのほうに向きなおって尋ねた。
「ララ、僕のことは嫌いじゃないんだろ? それだけは教えてくれ」。
 ララは頬を赤らめて小さくうなずいた。

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GO! ララ、GO! (29)

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二十九 不器用で傲慢な部下

昇進するまでララは自分には部長の任務をこなす力量が十分にあると信じて疑わなかった。しかし実際にこのポストについてみると、想像以上に多くの仕事をこなさなければならないことがわかり、かなり大きなプレッシャーを感じた。レスターは放任主義で、口うるさくもないかわりに部下をサポートする気もなく、ララは様々な仕事を手探りで行わなければならなかった。ウェンホァとジェイソンが次々に辞職したことは採用業務に就いたばかりのララにとってまさに弱り目に祟り目である。

ララはホンにバカにされたくないという意地とハワードを失望させたくないという気持ちから歯を食いしばって頑張り、常に元気そうに振舞っていた。DBは典型的なアメリカ企業で、社内である程度のポストに就いている社員は男女を問わずhigh energy(エネルギッシュ)なiron man(鉄人)のイメージを保とうとする。誰もが食事も睡眠も必要ないかのように、前日の会議終了時間が遅ければ遅いほど翌日は早朝に出社して血色のよい顔色で元気よくSAY HELLO(あいさつ)しなければならない。ララは周りに合わせて元気を奮い起こすしかなかった。

最近のララはプレッシャーのせいで苛立ちやすくなり、ヘレンをきつく叱責することも何度かあった。だがそれもヘレンに対しては気安い態度をとっても大丈夫だとわかっていたからである。出会ってから四年間、ヘレンとは常によい関係であったし、さらに彼女はあっけらかんとした性格で嫌なこともすぐに忘れてしまう。しかし、二人の新しい部下にはこのやり方は通じないだろう。

生産性の低い一部の営業所を閉鎖するため、二人の部下はそれぞれ担当エリアの営業所と連絡を取り合い、関連事項について話し合うことになった。

だが、リャンの仕事は明らかに要領が悪く筋が通らないものであった。彼が提出する報告書には常に多くのミスがあり、しかもあまりにつまらないミスばかりである。一目でわかるほど出鱈目な内容をリャンは見分けることができないのだ。

たとえば彼の報告書では威海営業所の家賃が青島営業所より高いことになっているが、都市経済の規模を考えれば青島の物価が威海に比べて段違いに高いことは誰でも知っている。威海の家賃が青島より高いなどということは有り得ない。だが彼は大真面目で汗水たらして働き、毎日のように残業している。ララは彼を叱責するに忍びなかった。

その後、彼が作成した数部の報告書にも基本的なケアレスミスがいくつも発見された。たとえば、報告書では新疆営業所は蘭州営業所よりも販売額がずっと低く、月平均売上が百五十万(SOPで規定した閉鎖対象下限額)に達しておらず、雇用人数も少ないとされているが、これは明らかに間違いだ。新疆営業所はDB中国でも比較的大きなブランチで、全社員が一目を置くエリート集団である。業績は上々で社員数も比較的多い。人事担当者なら調べるまでもなく大体の状況はわかっていなければならない。ララはがっくりと肩を落とした。こんなデータ分析を上司に見せたら自分が恥をかいてしまう。      

二か月も経たないうちにララはリャンの特徴を理解した。彼は仕事には真面目に取り組んでいる。しかし困ったことに論理的思考が全くできない。特に臨機応変さとコーディネート能力が強く求められるプロジェクト管理に直面すると完全にロジックを失ってしまうのだ。これにはララもお手上げだった。

ララは理解に苦しんだ。面接試験ではリャンは非常に論理的に話していたし、それが彼を気に入った最も大きな理由である。ロジカル・シンキングこそが彼の最大の強みだと思ってしまった。話の筋は通っているのにどうして仕事があれほど出鱈目なのだろうか。

それだけならまだいい。問題はリャンの自尊心だ。ララはこれほど強い自尊心の持ち主に出会ったことがなかった。彼は長いこと人事と総務で働いてきたにもかかわらず、専門職としてのレベルは決して高いとは言えない。周囲が彼の無能さに気付くのを極端に恐れ、ミスをするたびに何とか言い逃れしようとする。それでも自分は有能なベテラン社員だと自負しているようだ。

ララは内心では悲鳴を上げていた――無能でも構わないのよ、お兄さん。無能なのに自分をひどく賢いと思っているところが怖いのよ。有能な者ほど癇癪持ちだとよく言うけれど無能なうえに独りよがりだなんて――。ララは業務経験が豊富なリャンがなぜ前の勤務先で出世できなかったのかがよくわかった。

だがララにはどうすることもできない。レスターが最初にリャンの気性には問題があると注意したのに、自分が忠告を聞かずに彼を採用してしまったのだ。リャンの上司である以上、なんとかcoach(指導)するしかない。ララは何度か彼の改善すべき点や仕事上のミスについて話し合おうとしたが、彼はsのたびに誰かにいきなり針を突き刺されたかのように激しく反応し、ララに具体例を挙げて説明させないと納得しなかった。

実例を挙げるのは容易だ。ララはDBで十分な訓練を受けてきたので何かの問題について話し合うときにはSTAR(situationtaskactionresult――状況、業務、行動、結果、つまり事案に関する全て)を必要とすることを心得ている。上司は部下その人を評価することを避け、事案そのものについて問題にすべきである。

ララが実例を出すたびに、最初は勢いこんで反論していたリャンは黙りこんでしまう。しかし彼はまた同じミスをする。何度か同じことを繰り返したのちに、彼はセルフチェックを放棄して間違いだらけの報告書をララに丸投げするようになった――彼は自分を買いかぶって北京出身者特有の傲慢さで私に対抗している――ララは彼の学習能力のなさにイライラし、ついに率直に指摘した。

「あなたが今月提出した四部の報告書にはどれも明らかに重大なミスがある。まず自分自身でチェックしたらどう? 仕事の正確さを確保することはあなたの責任なんだから」。

リャンは「申し訳ありません」と謝るくらいなら殺されたほうがましだと思う性格だ。場の雰囲気は一気に緊張した。ララはリャンを採用したことをひどく後悔した。彼の仕事への真面目な取り組みを評価していなければ、本当はすぐにでも解雇したかった。

パメラは逆に頭脳明晰さを十分に発揮していた。彼女は生産性の低い営業所を閉鎖するプロジェクトに迅速に反応し、論理的に思考し、全ての業務を順序だてて手配した。リャンのように汗をかきながら毎日残業する必要は全くなく、仕事では確実にララを満足させる結果を出した。ララが彼女にタスクと目的を説明しさえすれば、細かい段取りまで示さなくても彼女は自然と事を処理してくれる。時にはひと眠りしようとする上司を察してさっと枕を差し出す部下のように、ララがまだ何も言わないうちにその後に予測される業務と問題点を提起することさえあった。

リャンのほうはどんなに些細な手順も全て教えなければならず、うっかり細かい指示を忘れるとろくに仕事ができない。ララが問い詰めても彼は悪びれる様子もなく堂々としている。

ララは内心に矛盾を抱えていた。

彼女はパメラの人柄には警戒していたが、一方ではパメラの仕事に心から満足していた。だがリャンは人柄がよく狡猾なところは全くないが、いかんせん仕事ができない。とりわけ無能なのに自信過剰なところがララには我慢ならなかった。ララに口答えをし、部下への対応も悪く、ミスをちょっと指摘することもできないほど自尊心が強い。上司なのに毎日彼に気を使って口を聞かなければならないことにララは疲れてしまった。

しかし二人を同時にクビにすることもできないし、現状で新たに後任を探すのも面倒だ。ララは心を決めかねていたが、ともあれリャンを試用期間終了後に正式採用とした。ほどなくパメラも三か月の試用期間満了となる。

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GO! ララ、GO! (28)


二十八 海老で鯛を釣る
 
  ララは二人の部下とミーティングを持ち、ララがプロジェクトの陣頭指揮を取り、リャンとパメラをそれぞれノース、サウスエリアの担当とし、ヘレンはララを補佐してサウスエリア傘下の営業所を受け持つよう指示した。
 彼女たちの具体的な業務は担当エリアの売上データの把握、各営業所の人的資源と稼働状況データの収集、過去十二か月分の平均事務費用の統計分析、各営業所の固定資産棚卸し、商工営業許可書等の文書の調査と整理、各営業所社屋の主要用途調査である。
 ララはパイロット調査を通じて具体的な関連部門と依頼事項を明らかにしてから、ハワードに宛ててメール連絡をするとともにピーターとレスターにもCCで同送し、どの部門の誰にどのようなデータと情報を提供してほしいかを説明して上層部の協力を求め、、さらに提出期限を明記した。
 ハワードは即座にこの稟議を決裁し、アシスタントのレベッカによって関連部門の本部長と関係スタッフに一斉送信で業務命令が下された。ピーターはメールの内容にしたがって財務部全員に積極的な協力を要請し、さらに他部門の本部長にも通知した。
 迅速な対応に次いで、ハワードは個人的にララを呼び出し、この業務に対する考え方を話すよう促した。ララはハワードが安易に多くの営業所が開設されるのを好ましく思っていないことを理解し、当面は生産性の低い営業所を閉鎖するつもりだと言った。しかし今回のプロジェクトはこの目的に限ったものではない。
 ララはヘレンに「営業所閉鎖に関するproposal(提案書)はできたの?」と尋ねられ、考えをめぐらせた。営業所閉鎖による経費削減は最も直接的な目的ではあるが、この方向性だけを打ち出して業務を進めれば上からも下からも不満が出る。会社が単に経費削減だけのために営業所を閉めれば社員の精神的な動揺は免れえないし、行政関連事務のリスク回避のためというのも企業イメージを損なうだろう。
 そこでララは「営業所管理標準業務手順書(SOP)」によって営業所管理を規範化するアイデアを思い付いた。これなら文句の付けようがないはずだ。
 ララは営業所設置基準として売り上げ高を規定することが通れば、生産性の低い営業所が自然に淘汰され、今後の営業所設置・閉鎖に関するルールが明文化されるだけでなく、各営業所が売り上げ増により努力するようになると考えた。さらにSOPで管理方法規定を通して各地行政部門の法的要件を確実に満たすため社印管理を徹底し、営業所のイメージを統一することも計画していた。新米部長のララが打ち出したアイデアはハワードを大いに満足させた。
 ララは、レスターに一言断ってから、ヘレンに電話にも来客にも一切対応しないように命じ、当面の仕事を全てリャンとパメラに一任してから、各部門の協力によって収集した過去のデータを手に自室に閉じこもった。デスクの上に各種のデータと資料を並べ、一週間必死に頭を絞ってSOPの草案を完成させた。その内容は目的、適用範囲、責任者、営業所設置及び閉鎖条件、基準と社内手続き、管理方法及び特殊事情発生時の特別許可申請手順及び特別許可決裁者の職位となっている。
 レスターは各営業所の社印を全て上海本社で統一管理し、捺印が必要な場合は一律に本社に郵送させようと提案したが、ララは現実的ではないと思った。本社にも捺印を専門に請け負う事務部門など置かれていない。彼女はまた知恵を絞って、SOP規定に営業所の社印を管轄地域の統括部長の下で管理することとし、捺印が必要な時には統括部長の判断を要することとした。
 同時に企業イメージ統一のため、SOPで営業所面積、オフィスビルのタイプ、内装スタイル、基調となる色調のパントーン番号(色番号)、会社のロゴを掲げる位置を全て明確に規定した。また具体的な職階に応じてどのランクの営業所でどれだけの面積を持つ部屋を使えるかも規定した。ヘレンは不思議そうに尋ねた。
「どうしてこんな細かいことまで規定しなきゃいけないの?」
「今の営業所の外観は所長の勝手な好みでバラバラ。デザインが不統一ではグローバル企業のイメージに合わないの。たとえば、マクドナルドに行こうと思ったら、どの都市のマクドナルドだろうとケンタッキーと間違えることはないでしょ? これがイメージの問題。あと、『 以人为本(人を以て本と成す)』というキャッチコピーを見れば必ずノキアを思い浮かべるのもそう。全ての人がどのDB営業所に入っても他社の営業所でなくDBとわかるようにする。それが専門企業というものよね。上層部が各地を視察したときにも、絶対に喜んでもらえる」。
ヘレンは感心して叫んだ。
「ララ、あなたってすごい!」
 ララは思わず得意げな笑みを浮かべた。
「でしょ!」
 ララはリャンとパメラにも草案に対する意見を聞いたが、二人はDBに来て日が浅いため多くは語らず、たいして内容のない補足をするにとどまった。その後ララはこの草案をメールに添付して各部門の本部長に送った。そして次々に電話をかけ、個別にアポイントを取って彼らの懸念する事項に関してヒヤリングを行うことにした。またこのメールはハワードとピーターとレスターにも送られ、業務進捗報告とした。
 ヘレンはまた首をひねった。
「どうして一人一人別々に話し合うの? 疲れるじゃない。全員一緒に会議しちゃダメなの?」
 ララは辛抱強く説明した。
「全員で会議をしたら多勢に無勢で言い負かされる。一人ずつ陥落したほうがいいのよ」。
 ヘレンは納得した顔でさらに聞いた。
「来週の会議で彼らなんて言うかしら?」
「このSOPは複雑で細則も多いでしょ。本部長たちはどうせ真面目に全文を読まないと思うからあらかじめポイントを絞って説明する。このポイントだけでSOPが実施されたら一部の営業所が廃止されることは一目瞭然。きっと大騒ぎするでしょうね」。
 ヘレンは好奇心旺盛に聞いた。
「じゃあどうするの?」
 ララはヘレンをちらっと見て言った。
「どうするって、なんとかなるわ。営業所閉鎖にともなって彼らが直面する問題はすでに調査済みだし、ソリューションも用意してある。それでも妥協しないなんて言い分は通らない。何しろこれは会社の決定事項なんだから。でも、不服はあるでしょうね。だから次なる手段はSOPがもたらす利益を示すこと。メリットがあるのにやらない人なんている? 会社もhappy本部長たちもホクホク。これこそWIN-WINよ。営業本部長は結果志向が強い人ばかりだから何事においても最終的利益を重視するはず」。 
 ヘレンは口を尖らせた。
「営業所を閉めるのに何かメリットがあるっていうの? 営業部もバカじゃないわよ」。
 ララは諭すように言った。
「メリットが何もないですって? 何もわかってないのね」。
 ヘレンは形勢不利と見て、首をすくめて立ち去ろうとした。しかし途中まで歩いてから急に何かを思い出したように急いで戻ってきた。
「ララあなたが規定した設置営業所の条件はひと月一人当たり売り上げ十五万元、営業所総売り上げ百五十万元。この十五万の規準は誰がそう決めたの? 営業部門はうけいれるかしら?」
 ララは神秘めかして言う。
「あなたは十五万という数字さえ覚えておけばそれでいい。これは専門家の意見よ。今は具体的な根拠を説明している暇はないの。いずれにせよ私は根拠のあることしか言ってない。この肝心な数字はかなり慎重に決定したから、営業部が反対するなら、主張の根拠を出してもらうことになるけど、最終的には彼らは必ず同意する。請け合ってもいいわ」。
 一週間後、ララは上海に飛んだ。SOP草案に対する本部長たちの意見をヒヤリングするためである。最初の面談相手は大口顧客部のウェイである。彼なら思いつく限りの反対理由を遠慮なくぶつけてくるだろう。そうすれば他の主要二部門――法人顧客部と一般顧客部――を説得するための準備ができる。この他にまだ規模の小さい部門が二つあるが傘下の営業所に出向している部下はほとんどいない。この二部門は後回しにして主要部門のついでにざっと概要説明すれば問題ない。彼らに特に強い意見がなければ、一つ一つの規定について確認する必要はないだろう。
 ララが思った通り、ウェイは提案を聞くや否やきっぱり反対した。
「部下を在宅勤務させるだって? そこにどんなチームワークが期待できるんだ?」
 予想通りの質問だ。ララは慌てずに説明した。
「全ての営業所を閉めるわけではありません。業績がよいところを残せば待遇も改善できます。商売がうまくいかないのに営業所を設置しておく意味がありますか?」。
「商売がうまくいっているかどうか、どうやって判断するんだ」。
「最低基準として一人あたりの売上が毎月十五万、会計年度で営業所全体の一か月の平均売上が百五十万に達する必要があります。でなければ営業所は設置できません」。
 ウェイはララが淀みなく回答したのを聞いて不快になり、眉を上げて言った。
「誰の意見なんだ?」。
 ララは慎重に言った。
「これは私が作ったたたき台です。草案も何もなければ話し合いも始まらないと思いましたので。今回、各本部長の意見をヒヤリングしているところなんです」。
 ウェイは動じずに言った。
「その数字の根拠はなんだ?」
ララは辛抱強く説明する。
「根拠は二つあります。一つには会社としての利潤と売り上げへの期待、二つには業界全体のデータです」。
「百五十万という数字はもっと検討すべきじゃないか?」
ララは慎重に言った。
「ですから本部長の皆さんに意見を頂きに来たんです。この数字が妥当でないなら、他の数字を提案して頂けますでしょうか」。
 ウェイは難しい問題だと思いつつ、しばし考えて言った。
「昆明、西安などはすぐにはその目標を達成することはできない。だが昆明は潜在的な市場価値があるし、西安も各大企業がこぞって取り合う場所だ。ララ、君を批判するわけではないが、こんなことをしたら君自身がDBに居づらくなるんじゃないか?」。
「誰も昆明や西安を閉めるなんて言っていません。売上百五十万の下限を設ける他に、その下に但し書きとして、管理層が潜在力のある市場と認めたものというのがあります」
 ウェイは遠慮なく聞いた。
「管理層とは誰だ?」
「草案では暫定的に各BU(事業部)の長と決めています。最終的に営業担当VP(副社長)、財務担当VP及び人事本部長の合議で許可します」
 ウェイは首を横に振って言った。
「そんなことをしたら本当に自分の首を絞めることになる。何と言えばわかってもらえるんだろう。僕には本当のことを言ってくれ、レスターは君がこの仕事を引き受けたことを喜んでいないに決まっている。ハワードの顔色ばかり窺っていてはだめだ。彼は四年の任期が終われば中国市場から離れる。君は彼を追いかけていくつもりか? 会社は動かないが人は移動する。ララ、そのことをよく考えるんだ。ハワードに気に入られたい一心で社内中から嫌われるようなことをしてはいけない」。
 ララは彼の強い口調に血の気が引いた。
「その言い方はあんまりです。そんなこと、考えたこともありません。私のためを思って言って下さっていることはわかりますが、そんなつもりはありません」。
 ララはウェイがノートパソコンのディスプレイを見ているのを見ると、それ以上話す気は失せかけたが、それでもウェイをなだめるように言った。
「話せばわかっていただけると思います。マイナスの面だけを見ないでください。営業所の規範化による利益もあるかもしれないでしょう」。
 ウェイはララに視線を戻し、疑うような口ぶりで言った。
「利益があるなら反対しない。僕は営業で交渉を拒絶したことはない。しかし、利益はそう簡単に得られるものではないが」。
「会社で『seven habits(七つの習慣)』の研修を受けましたよね。全てのことには第三のソリューションがあります。誰にとっても利益になる解決法です」。
 ウェイはさして興味なさそうに聞きながら言った。
「営業所を閉める話をしているのに七つの習慣の話なんか持ち出して」。
 そしてまたもやヒートアップし、営業部の決まり文句を口にした。
「そんなことをして売り上げに問題があったら誰が責任を取るんだ?」
 ララはご機嫌を取って言った。
「SOPの第一条を見てください。目的として営業所管理を規範化するための標準業務手順書、とあります。営業所を閉鎖するためにこのSOPを定める、なんてどこにも書いてありませんよ。もう一度考えてみてください。営業所設置条件を規定すれば、少なくとも賞罰が明確になります。うまく行っているところには会社が好条件を提供し、うまく行っていないところと区別する。これは売り上げ促進になりませんか?」
 ウェイはララを横目で見て吐き捨てるように言った。
「ペテンだ。百五十万と言うならやってみろ」。
「一人当たり十五万売り上げれば一営業所で百五十万は確実に達成できます。一人一月あたり平均十五万の売り上げがなければ現状の営業目標も達成できませんから、営業部にとって問題だということになりませんか? 営業部に問題があるということはハワードにとっても問題になります。ですが、売り上げは私たちの問題ではありません」。
 ウェイは口調を和らげて言った。
「会社が決めたことならしっかりとやる。だがララ、どんなことでも実行可能性を考えるべきじゃないか? 在宅勤務では士気が下がるのは免れえない」。
 ララ依然として自信あり気に言った。
「それは我々がどのように社員とコミュニケーションをとるかにかかっていますね」。
「そうだな。君の方法によると、何か所の営業所を閉鎖することになりそうか、先に教えてくれないか? すでに営業部門に各営業所の売上データを調査させているんだろう?」。
 ララは正直に答えた。
「はい、過去十二ヶ月の月平均売上によると約十か所の営業所が閉鎖されます」。
 ウェイはすぐに不機嫌になった。
「そうなると思っていたよ。その十か所の営業所員はどうやって仕事をするんだ?」。
「各営業所との話合いの結果に基づくと、現在営業所の主要用途は二つです。一つは週一回の定例会議。二つにはマーケティング部が各営業所に送った書類や資料、様々なイベントに使うノベルティを配ったり保管したりしておくということです」。
「その二つの用途についてはどうやって解決するつもりだ?」。
 ララは筋を通して言った。
「会議はホテルの会議室を借りて開催します。財務部は都市ランクに基づいて各地域に会議場レンタル料を支給します。倉庫保管の問題については、すでにマーケティング部の配送ルールと管理要求を確認しており、仕入れ部門が営業部に協力して全国の主要都市で倉庫保管サービスを提供する物流会社と話をつけてくれるそうです。私たちは配送、荷受け、棚卸、出荷、検数、全て一元的に業者に任せれば、自社で各地の倉庫を借りるより安くつくし、営業部社員の荷受けと倉庫管理の手間を省くことができます。業者は毎月私たちの要求に応じた在庫明細書を提供可能で、マーケティング部の管理をサポートできます」。
 ウェイは真剣に聞きながら考えた。ララは本当にしっかりしていて、ニーズをはっきり理解している。またソリューションも詳細に考えてあり、ぬかりがない。ララさらに聞いた。
「まだ気になることがありますか?」
 ウェイはすでにほぼ納得させられていたが、すぐに決断を下せずに言った。
「そうだな、もう一度このSOPをじっくり見てみよう。それに三つの地域統括部長と話し合ってみる必要もある」。
 「そうですね、地域統括の下にいる営業所長は具体的な状況を最もよく把握しています。一週間後にまたご意見を伺いにきてよろしいでしょうか」。
「そんなに急ぐのか、できるだけのことはしよう。」
 ララは笑顔で、今日ご意見を聞けてとても参考になりました、帰ったらどう改善すればもっと良くなるか検討します、と礼を言った。
 ウェイは急に何か思いつき、ララを呼び止めて言った。
「君は利益があると言ったよな? 聞いた話では、僕の部下の荷受けと倉庫管理の手間は省くことができる。他にもっと具体的な利益があるのか?」
 ララは笑った。
「本当に頭が切れますね。では来週ここに来たときにどんな利益があるかお教えしましょうか。でも実は、どこから利益を生み出せるかお知恵を借りたいと思っていました」。
 ウェイも笑った。
「なんだ、海老で鯛を釣るつもりだったのか」。

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