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GO! ララ、GO! (31)

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三十一 手柄は上司のもの

 プロジェクトが営業部にもたらす利益について説明すると、ウェイはララにピーターのところから必要経費を確保してくるよう指示した。ララはさらに各部門本部長に根回しを続けた。最終的に、全員の総意として「会社上層部がすでに『営業所設置に販売実績の下限を設ける』というポリシーを打ち出した以上は従わないわけにはいかない。それなら、第一に日常業務に関わる問題を解決し、第二に営業部の予算を増額してほしい。それをララの言う『利益』と考えよう」ということになった。

 「ゴリオ」ことピーター財務担当副社長から経費を奪取するのは容易なことではない。ララはレスターに経過を報告し、ボスに交渉の場に出てもらおうと考えた。しかしレスターはあの手ごわいピーターとの話し合いに二の足を踏んだ。

「ララ、よくやったな。信頼できる部下を持って嬉しいよ。この件は君に全権委任しよう。君の決定を私は全面的に支持する!」。

 ララは望みの綱を絶たれたが、何かにつけハワード社長のところに行くのも憚られたので、ピーターにつきまとってひたすら懇願と説得を繰り返した。彼はララにこの仕事を押し付けることに成功してひそかに喜んでいたのだが、ララがこの二か月で目に見えてやつれていくのを見て、少しは彼女に協力してやろうかと考えた。最終的に彼女の頼みを聞き入れ、これから閉鎖される営業所を管轄している部門に対しては現在の営業所賃貸料と固定資産予算の二分の一を販売経費として予算を付け直すことにした。

 ララは獲得した予算の配分について検討を加え、最も簡単な方法は各部門のheadcount(スタッフ数)に応じて均等割りにすることだと考えた。レスターにそう提案して最終決定を仰ぐと、レスターは難色を示した。

「そんなに簡単な問題ではない。営業部の予算はこれまで単純に人数計算で分配したことなどないんだ。市場のニーズや製品の特長、販売目標、利潤などの要素をすべて考えあわせて決めている。各営業本部長に意見を聞けば、きっとそれぞれ違うことを言うだろう。スタッフの多い部門は人数分を要求するだろうし、逆の場合は販売高で分配するよう要求してくる。下手をすればそれ以外の様々な配分案が出てこないとも限らない」。

「こちらで検討して配分案を出すことはできませんか?」

 レスターは少し考えた。

「焦らないほうがいい。下手をすれば我々が批判されることになってしまう」。

 具体的な結論は出ず、いたずらに時間ばかりがたった。彼女はレスターの思案顔を見て、これ以上ここにいても無駄だと悟った。

ララがウェイのオフィスの前を通り過ぎようとしたとき、ウェイに呼び止められて部屋に入るように促された。彼はララの元気がない顔を愛おしく感じて微笑みながら言った。

「どうだ? ピーターは手ごわいだろう。レスターに出てきてもらえよ」。

 ララは胸を張って言った。

「誰がピーターに負けたなんて言った?」

 ウェイはこれほど早く結果が出たことを知って、むしろ意外に思った。

「へえ、じゃあ経費はいくら取り戻せたんだ?」

 ララは彼に賃貸料と固定資産の予算の半分だと告げた。

「交渉の成果があったな。それはレスターがゴリオと交渉した結果か?」

 ララは手を広げ、「それは聞かないで」という動作をした。

 ウェイは俄然興味を持ったようだ。

「その様子だとレスターに何か言いたいことがあるようだ」。

 ララはすぐに警戒して言い返した。

「でたらめ言わないでよ! 私の足を引っ張るつもり?」

 ウェイは自分の勘が当たって得意になった。

「その言い方はないだろう。これこそ本音のコミュニケーションというもんだよ」。

 ララはため息をついた。

「ああ、ウェイ、官僚ってどういうものか知ってる?」

「杓子定規で逃げ口上がうまいやつ?」。

 ララは得意げに持論を述べた。

「ふん! 官僚の特徴なら、私は経験上よく知ってる――決定すべき事項については考え込む、難題に直面したら権限を委譲するやつよ」。

 ウェイは机を叩き、親指を立ててほめた。

「いいね、ララ! 改めて君の理論水準を見直さないといけないな」。

 ララはすっかりうぬぼれた。

「ふふん! 私はもともと優秀だもの! あなたに見る目がなかっただけよ」。

 二人で冗談を言いあってしばらく笑ったあと、ララは改めてウェイに頼んだ。

「ウェイ、他の二つの部門はスタッフが少なくない。でも、大口顧客部だけはスタッフが少なく一人当たりの売上高が高い。申し訳ないけど今回は私の案を呑んで予算を人数に応じて配分することに同意してくれない?」

 ウェイは彼女の期待のまなざしを見て、これ以上困らせたくない、さして大きな額でもないからと思い、あっさりと受け入れた。ララはさらに他の二人の本部長にも報告に行った。彼らにとってはグッドニュースだったのでもちろん文句の出ようもなく、ララは二人から感謝と称賛の言葉にあずかった。

 ララは喜び勇んでレスターの部屋に行き、営業部門の本部長全員が人数に応じた予算配分に同意したと報告した。レスターは彼女がたった二日で問題を解決したことにうろたえた。営業部長たちはいずれも一癖あるのに、何はともあれララは問題を解決したのだ。彼は満足し、部下を高く評価した。

「よくやった! いいチームワークだ!」。

 ララはデスクに戻って、さっそくパメラがまとめ上げた三エリアの報告書を検討した。おおよそ問題はなく、ララの顔には安堵の笑みが浮かんだ。パメラはララのそばに立って上司が報告書に満足している様子を見て取ると笑いながら言った。

「二日程リャンと一緒に仕事をして、昨晩十時過ぎにやっとNCエリアの資料整理がなんとか終わりました」。

 リャンの資料を全て整理してくれたとは実にありがたい。ララはパメラを褒め、自分は翌日早朝のフライトで発つので明朝は出社せず直接空港に向かうと告げた。パメラは上司に指示される前に的確に答えた。

「ご安心ください。関係部門は私がフォローアップしておきます。」

 ララはうなずいた。

「お願いね。私は先に失礼するけど、あなたも遅くならないようにして。最近は残業が多いみたいだから」。

「今日はたぶん十時までかかりそうです。私は何事も早めに手を打ちたいほうなので。今のうちに抜かりなくやっておけば、プロジェクト後期は余裕を持てます」。

 ウェイがララを夕食に誘いに来た。ララはシートベルトを締めながら聞いた。

「夜の付き合いとかないの? 営業本部長なのに」。

 ウェイは笑った。

「ララが上海にいるじゃないか。君がいなくなってから客の相手をするよ」。

 ララは上機嫌でウェイをからかった。

「ならよかった。明日には広州に戻るからあなたの仕事を邪魔しないで済む」。

「明日は空港まで送ってやるよ」。

「やめて、空港だと会社の人に見られちゃう。前に飛行機で口論になったとき、同じ機内にジョンがいたのよ。本当にバツが悪くて」。

「どのジョン?」

 マーケティング部本部長のジョン・ハンターだと聞いて、ウェイは黙り込んだ。何も言わない彼を見て、ララは面白半分に聞いた。

「ねえ、噂だけど、あなたはジョンとあまり気が合わないの?」

 ウェイは意味ありげに笑っただけで何も答えない。

「言わなくてもいいけど」。

 食事を終えて、ララはホテルのカードキーがバッグに入っていないことに気付いた。おそらくオフィスのデスクの上に忘れて来たのだろう二人は会社に戻ることにした。ウェイは車を一階ホールの裏口に停めてララに言った。

「ここで待っているからキーを取ってすぐに戻っておいで」。

 ララはうなずいて車を降りた。時刻は九時近く、社内ではまだ数人が残業しているが、パメラは席にいないようだ。おそらく既に仕事を終えて帰ったのだろう。ララは特に気にすることもなく、ルームキーを手に取って戻ろうとした。ふとオフィスの隅を見ると、パメラの部下のマギーが給湯室からデスクに戻ってきた。ララは不思議に思い、声を強めて言った。

「マギー、なんでまだ帰ってないの?」

 マギーは上司が戻ってきたのを見て、歩み寄ってきた。

「最近、営業所閉鎖プロジェクトの業務が山積みで、しかも急ぎの仕事ばかりじゃないですか。毎日のように残業しないと終わらないんです。でも、パメラに今週前半は残業しないで今日と明日は残業しろと言われました」。

 ララはマギーもこのプロジェクトに関わっていることを今まで知らなかった。パメラは数日前、マギーの手助けはいらないと言っていたはずだ。ララは納得できず、マギーのデスクに座ってパソコンをのぞきこんだ。見れば見るほど表情は険しくなった。

「この報告書のどこをあなたが担当しているの?」

「営業部との折衝で、データの取得と整理をすべて私がやって、書式はパメラが用意したものです」。

 ララはマギーとパメラがどのように仕事を分担しているのか尋ねた。

「彼女が私にタスク表をくれて、それには進捗状況の目安が示されているので、私はその通りに進め、完了したら彼女に確認してもらいます。財務部が持っているマーケティング部のデータを彼女がもらってきて、分類と分析は私が全てしています」。

 ララはその仕事はできるのかと聞いた。

「結構大変なんです。というのも、説明を聞いても分からないことがよくあるんですよ。間違えると怒られますし」。

 ララはマギーに注意した。

「またパメラの悪口を言いたいの!」

 マギーは急いで手を振って否定した。

「そんなつもりはありません」。

 マギーはララに近づいて言った。

「ララ、パメラは賢くて有能で、少なくともわかりやすい指示を出してくれます。彼女は仕事のやり方がわかっているんです。でも北京のリャンは全然ダメみたい。支離滅裂な指示を出すからサンドラ(リャンの部下で北京人事課課長補佐)たちは疲れきってるそうですよ。なのにパメラに負けず劣らず厳しくて、しかも理由もなく怒るらしいです」。

 ララは顔色ひとつ変えずに言った。

「そう? じゃあ、あなたたちはその件について課長と直接話し合った?」

 マギーは少し舌を出した。

「余計なことを言いました。すみません」。

 ララはウェイが下で待っていることを思い出して立ち上がった。

「マギー、あなたはなかなか良くやってる。今の仕事はあなたにとってはとても大変だろうけど、あなたを成長させるわ」。

 マギーははっきりと言った。

「わかってます。むしろもっとやりたいくらい」。

 彼女はこの仕事の付加価値が高いことを知っている。マギーは賢いとララは思った。そして念のためにマギーにくぎを刺した。

「今夜私が戻って来たことは誰にも言わないで、さっきの話もね」。

 マギーは機転を利かせた。

「もちろん言いません」。

 ララは彼女に目で合図をして去った。

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