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GO! ララ、GO! (30)


三十 「ずっと大切にする」

 ララは上海に着くとさっそく事前にアポイントを入れておいた数人の本部長と打ち合わせを行った。自分のデスクに戻ったときにはすでに勤務時間を過ぎていた。本社のパメラは彼女を待っており、北京のリャンと広州のヘレンも会社に残っていると言う。そこでララはオンラインで部内会議を行い、一時間でプロジェクトの進捗確認及び各担当者が現在直面している問題を一通り聴取することとした。パメラはすぐにリャンとヘレンをオンライン会議システムに呼び出した。最初はパメラの担当するECエリアだ。非常に順調に進んでいる。次にヘレン担当のSCだ。こちらもほぼ問題ない。最後にNC担当のリャンが報告書を提出した。ララは読み進むにつれて落胆が大きくなった。苛立つ気持ちを抑えていくつか質問すると、リャンの回答はますます辻褄が合わなくなり、ララが誘導しようとしても彼の頭は混乱するばかりで支離滅裂な答えしか返ってこない。ララはその様子にすっかりfrustrate(失望)し、今日はここまでにするので自分でもう一度よく考えて何か問題点があれば明日また聞くようにと言い、そそくさとオンライン会議を終えた。

 パメラはララが疲れきっているのを見てとり、自分が明日の朝いちばんでリャンの手助けをして業務をチェックすると自主的に提案した。ララはうなずいた。
 パメラは会議室を出てリャンとヘレンに電話をかけに行き、しばらくしてからララのところへ戻ってきた。二人と話がつき、彼女が全てのチェックを行ってから三エリアの業務報告をとりまとめて一両日中にララに提出することになった。ララはほっとして力が抜けた。ララはもうリャンの指導には完全にお手上げだったので、パメラがララの気持ちを推し量って自ら仕事を買って出てくれたのはありがたかった。苦難を共にする同志にララは思わず優しい気持ちになった。
「パメラ、最近残業は多いの?」
パメラはララの温情を感じ、声を和らげて答えた。
「多少は残業しますが、さほどでもありません」。
 ララは部下のマギーに仕事の一部を手伝わせたらどうかと提案したが、パメラはこのプロジェクトはセンシティブな問題を含むのでマギーに任せるのは不安だからやはり自分でやると言った。ララはそれもそうだとうなずいた。
「ECの報告書はよくできていたわ。お疲れ様」。
「それでは私はお先に失礼します、部長もあまり遅くまで無理をなさらないでくださいね」。

 パメラが帰るとすぐにウェイから電話があり、一緒に食事に行きたいが仕事はいつ終わるかと聞いてきた。
「今日はやめておく。疲れたから早くホテルに戻って休みたいの」。
 ウェイは疲労のにじむ声に胸を痛めた。
「でも食事はしないと。どこか近くで適当に食べよう。終わったらすぐにホテルに送るよ」。
 ララは無言だった。ウェイは重ねて言った。
「外は雨で気温も低い。この天気ではタクシーをつかまえるのに一時間はかかるだろう。食事くらいつきあってくれよ。最近いい店を見つけたんだ」。
ララはため息をつくだけで何も答えない。ウェイははっきり断られる前に急いで言った。
「じゃあそれで決まりだ。十五分後にロビーの玄関前に車をつけるよ」。
 ララがロビーを出るとウェイはすでに待っていた。ララは後部座席のドアを開けて車に乗った。彼女が助手席に座らないのは自分に対して何か不満があるときだということをウェイはすでに理解していた。ララが疲れている様子を見て、話しかけるのは遠慮し、ゆっくりと車を出した。ララは目を閉じてシートにもたれ休もうとしたが、ウェイが対向車に挨拶をしたような気がして急に警戒し、目を開き「誰の車?」と尋ねた。
 ウェイがレスターの車だと言うと、ララはびっくりして「レスターは私を見た?」と尋ねたが、ウェイは「どうだろう、わからないな」と正直に答えた。ララは心配そうな表情になり、それ以上何も言わなかった。ウェイはバックミラーに映るララをちらっと見た。
「横になって休めばいい。邪魔しないから」。
「いいの。こうしているだけで十分」。

 ウェイにはララの考えていることがよくわかった。今まで二人で一緒にオフィスを出たことがない。常に少し離れた場所に車を停めてララを乗せた。二人にはやはり人目に立つのはよくないという暗黙の了解があったのだ。ウェイはララをなだめるように言った。
「レスターに見られたところでどうってことないさ。雨でタクシーがつかまらなくて困っている君を僕がたまたま見つけてホテルまで送った。何もおかしくないよ。そんなに心配するな」。
ララはウェイに心の中を見透かされて何も言い返せなかった。

 食事を終えてホテルに帰るときもララはまた後部座席のドアを開けた。ウェイは彼女のやりたいようにさせ、余計なことは何も言わなかった。帰路、二人は話題を探すように当たりさわりのない会話をした。上海の冬は止まない雨が降る。ウェイは車を道のわきに寄せ、雨よけのある場所に停めた。ララは驚いたように聞いた。
「どうしたの? 車に何か問題でも?」
「ちょっと問題がある」。
 ウェイは車を降り、前から回り込んで後部座席のドアを開いた。ララは怪訝そうにウェイを見ていたが、彼は素早くララの隣に乗り込んで彼女を引き寄せて自分の方を向かせた。
「何するの! 乱暴ね!」
 ウェイは低い声で言った。
「乱暴だと言うならそれでもかまわない。僕のどこに不満があるんだ?」
 ララはウェイの手から逃れようとして体をよじり、大声をあげた。
「どうかしてる! 不満だなんて誰も言ってない」。
「よし。不満はないんだな。なら助手席に座らないのはなぜか答えろ!」。
「先に手を離して!」。
 ウェイは手を離そうとしない。ララは男の手を振り切れず、あきらめて体をよじるのをやめ、ウェイを睨みつけて尖った声で言った。
「私には助手席に座る義務でもあるの?」
 ウェイは何も言わず急にララを抱き寄せた。ララはウェイの胸の中でわずかに震えながらも一度にいろいろな事を考えてしまう彼女の頭には突然「南の娘に北の男」という諺が浮かんだ。ララは突然、ウェイを信じたいと強く思った。しばしの沈黙の後に、ウェイの声が聞こえた。
「ずっと、大切にする」。
 ララは何も言わない。ウェイはララを放して彼女の顔を見つめて答えを待っていた。ララは無理やり気持ちを落ち着けてウェイを見上げ、お決まりの策略で話の腰を折ろうとした。
「私にセクハラで訴えられるとは思わないの?」
 ウェイは怒気を含んだ声で言った。
「僕は若造じゃない! 浮ついた気持ちじゃないのがわからないのか。どうしてぶち壊そうとするんだ。互いの気持ちはわかっているのにセクハラなんて!」。
 ララは「互いの気持ち」ということばを聞いて、ある女性の姿が脳裏に浮かんだ――長い巻き毛、彫刻のような面立ち――ララの顔色がさっと変わった。彼女のことをウェイに直接確かめようと思ったことがあるが、結局は言い出せなかった。もしそれを口にすれば、自分と彼の関係を私生活にまで干渉する段階に進展したことを認めることになると思ったからだ。ウェイは彼女の気持ちの変化を敏感に察知し、こう問いかけた。
「僕のどこが気にいらないのか教えてくれ。僕はどうすればいい?」。
 ララは下を向いた。
「違うの。まだわからない。会社は社員同士のこういう関係を嫌がると思う。それに『雉も鳴かずば撃たれまい』と言うし」。
 ウェイの内心は腹立たしさと可笑しさが半ばしていた。
「もっといいことわざはないのか。誰がキジで誰が猟師なんだよ。僕たちは直属の上司と部下でもないのに」。
 ララは何も言い返せなかった。ウェイは黙り込んでいる彼女から視線を離して前を向き、少し考えてからまたララのほうに向きなおって尋ねた。
「ララ、僕のことは嫌いじゃないんだろ? それだけは教えてくれ」。
 ララは頬を赤らめて小さくうなずいた。

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