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GO! ララ、GO! (28)


二十八 海老で鯛を釣る
 
  ララは二人の部下とミーティングを持ち、ララがプロジェクトの陣頭指揮を取り、リャンとパメラをそれぞれノース、サウスエリアの担当とし、ヘレンはララを補佐してサウスエリア傘下の営業所を受け持つよう指示した。
 彼女たちの具体的な業務は担当エリアの売上データの把握、各営業所の人的資源と稼働状況データの収集、過去十二か月分の平均事務費用の統計分析、各営業所の固定資産棚卸し、商工営業許可書等の文書の調査と整理、各営業所社屋の主要用途調査である。
 ララはパイロット調査を通じて具体的な関連部門と依頼事項を明らかにしてから、ハワードに宛ててメール連絡をするとともにピーターとレスターにもCCで同送し、どの部門の誰にどのようなデータと情報を提供してほしいかを説明して上層部の協力を求め、、さらに提出期限を明記した。
 ハワードは即座にこの稟議を決裁し、アシスタントのレベッカによって関連部門の本部長と関係スタッフに一斉送信で業務命令が下された。ピーターはメールの内容にしたがって財務部全員に積極的な協力を要請し、さらに他部門の本部長にも通知した。
 迅速な対応に次いで、ハワードは個人的にララを呼び出し、この業務に対する考え方を話すよう促した。ララはハワードが安易に多くの営業所が開設されるのを好ましく思っていないことを理解し、当面は生産性の低い営業所を閉鎖するつもりだと言った。しかし今回のプロジェクトはこの目的に限ったものではない。
 ララはヘレンに「営業所閉鎖に関するproposal(提案書)はできたの?」と尋ねられ、考えをめぐらせた。営業所閉鎖による経費削減は最も直接的な目的ではあるが、この方向性だけを打ち出して業務を進めれば上からも下からも不満が出る。会社が単に経費削減だけのために営業所を閉めれば社員の精神的な動揺は免れえないし、行政関連事務のリスク回避のためというのも企業イメージを損なうだろう。
 そこでララは「営業所管理標準業務手順書(SOP)」によって営業所管理を規範化するアイデアを思い付いた。これなら文句の付けようがないはずだ。
 ララは営業所設置基準として売り上げ高を規定することが通れば、生産性の低い営業所が自然に淘汰され、今後の営業所設置・閉鎖に関するルールが明文化されるだけでなく、各営業所が売り上げ増により努力するようになると考えた。さらにSOPで管理方法規定を通して各地行政部門の法的要件を確実に満たすため社印管理を徹底し、営業所のイメージを統一することも計画していた。新米部長のララが打ち出したアイデアはハワードを大いに満足させた。
 ララは、レスターに一言断ってから、ヘレンに電話にも来客にも一切対応しないように命じ、当面の仕事を全てリャンとパメラに一任してから、各部門の協力によって収集した過去のデータを手に自室に閉じこもった。デスクの上に各種のデータと資料を並べ、一週間必死に頭を絞ってSOPの草案を完成させた。その内容は目的、適用範囲、責任者、営業所設置及び閉鎖条件、基準と社内手続き、管理方法及び特殊事情発生時の特別許可申請手順及び特別許可決裁者の職位となっている。
 レスターは各営業所の社印を全て上海本社で統一管理し、捺印が必要な場合は一律に本社に郵送させようと提案したが、ララは現実的ではないと思った。本社にも捺印を専門に請け負う事務部門など置かれていない。彼女はまた知恵を絞って、SOP規定に営業所の社印を管轄地域の統括部長の下で管理することとし、捺印が必要な時には統括部長の判断を要することとした。
 同時に企業イメージ統一のため、SOPで営業所面積、オフィスビルのタイプ、内装スタイル、基調となる色調のパントーン番号(色番号)、会社のロゴを掲げる位置を全て明確に規定した。また具体的な職階に応じてどのランクの営業所でどれだけの面積を持つ部屋を使えるかも規定した。ヘレンは不思議そうに尋ねた。
「どうしてこんな細かいことまで規定しなきゃいけないの?」
「今の営業所の外観は所長の勝手な好みでバラバラ。デザインが不統一ではグローバル企業のイメージに合わないの。たとえば、マクドナルドに行こうと思ったら、どの都市のマクドナルドだろうとケンタッキーと間違えることはないでしょ? これがイメージの問題。あと、『 以人为本(人を以て本と成す)』というキャッチコピーを見れば必ずノキアを思い浮かべるのもそう。全ての人がどのDB営業所に入っても他社の営業所でなくDBとわかるようにする。それが専門企業というものよね。上層部が各地を視察したときにも、絶対に喜んでもらえる」。
ヘレンは感心して叫んだ。
「ララ、あなたってすごい!」
 ララは思わず得意げな笑みを浮かべた。
「でしょ!」
 ララはリャンとパメラにも草案に対する意見を聞いたが、二人はDBに来て日が浅いため多くは語らず、たいして内容のない補足をするにとどまった。その後ララはこの草案をメールに添付して各部門の本部長に送った。そして次々に電話をかけ、個別にアポイントを取って彼らの懸念する事項に関してヒヤリングを行うことにした。またこのメールはハワードとピーターとレスターにも送られ、業務進捗報告とした。
 ヘレンはまた首をひねった。
「どうして一人一人別々に話し合うの? 疲れるじゃない。全員一緒に会議しちゃダメなの?」
 ララは辛抱強く説明した。
「全員で会議をしたら多勢に無勢で言い負かされる。一人ずつ陥落したほうがいいのよ」。
 ヘレンは納得した顔でさらに聞いた。
「来週の会議で彼らなんて言うかしら?」
「このSOPは複雑で細則も多いでしょ。本部長たちはどうせ真面目に全文を読まないと思うからあらかじめポイントを絞って説明する。このポイントだけでSOPが実施されたら一部の営業所が廃止されることは一目瞭然。きっと大騒ぎするでしょうね」。
 ヘレンは好奇心旺盛に聞いた。
「じゃあどうするの?」
 ララはヘレンをちらっと見て言った。
「どうするって、なんとかなるわ。営業所閉鎖にともなって彼らが直面する問題はすでに調査済みだし、ソリューションも用意してある。それでも妥協しないなんて言い分は通らない。何しろこれは会社の決定事項なんだから。でも、不服はあるでしょうね。だから次なる手段はSOPがもたらす利益を示すこと。メリットがあるのにやらない人なんている? 会社もhappy本部長たちもホクホク。これこそWIN-WINよ。営業本部長は結果志向が強い人ばかりだから何事においても最終的利益を重視するはず」。 
 ヘレンは口を尖らせた。
「営業所を閉めるのに何かメリットがあるっていうの? 営業部もバカじゃないわよ」。
 ララは諭すように言った。
「メリットが何もないですって? 何もわかってないのね」。
 ヘレンは形勢不利と見て、首をすくめて立ち去ろうとした。しかし途中まで歩いてから急に何かを思い出したように急いで戻ってきた。
「ララあなたが規定した設置営業所の条件はひと月一人当たり売り上げ十五万元、営業所総売り上げ百五十万元。この十五万の規準は誰がそう決めたの? 営業部門はうけいれるかしら?」
 ララは神秘めかして言う。
「あなたは十五万という数字さえ覚えておけばそれでいい。これは専門家の意見よ。今は具体的な根拠を説明している暇はないの。いずれにせよ私は根拠のあることしか言ってない。この肝心な数字はかなり慎重に決定したから、営業部が反対するなら、主張の根拠を出してもらうことになるけど、最終的には彼らは必ず同意する。請け合ってもいいわ」。
 一週間後、ララは上海に飛んだ。SOP草案に対する本部長たちの意見をヒヤリングするためである。最初の面談相手は大口顧客部のウェイである。彼なら思いつく限りの反対理由を遠慮なくぶつけてくるだろう。そうすれば他の主要二部門――法人顧客部と一般顧客部――を説得するための準備ができる。この他にまだ規模の小さい部門が二つあるが傘下の営業所に出向している部下はほとんどいない。この二部門は後回しにして主要部門のついでにざっと概要説明すれば問題ない。彼らに特に強い意見がなければ、一つ一つの規定について確認する必要はないだろう。
 ララが思った通り、ウェイは提案を聞くや否やきっぱり反対した。
「部下を在宅勤務させるだって? そこにどんなチームワークが期待できるんだ?」
 予想通りの質問だ。ララは慌てずに説明した。
「全ての営業所を閉めるわけではありません。業績がよいところを残せば待遇も改善できます。商売がうまくいかないのに営業所を設置しておく意味がありますか?」。
「商売がうまくいっているかどうか、どうやって判断するんだ」。
「最低基準として一人あたりの売上が毎月十五万、会計年度で営業所全体の一か月の平均売上が百五十万に達する必要があります。でなければ営業所は設置できません」。
 ウェイはララが淀みなく回答したのを聞いて不快になり、眉を上げて言った。
「誰の意見なんだ?」。
 ララは慎重に言った。
「これは私が作ったたたき台です。草案も何もなければ話し合いも始まらないと思いましたので。今回、各本部長の意見をヒヤリングしているところなんです」。
 ウェイは動じずに言った。
「その数字の根拠はなんだ?」
ララは辛抱強く説明する。
「根拠は二つあります。一つには会社としての利潤と売り上げへの期待、二つには業界全体のデータです」。
「百五十万という数字はもっと検討すべきじゃないか?」
ララは慎重に言った。
「ですから本部長の皆さんに意見を頂きに来たんです。この数字が妥当でないなら、他の数字を提案して頂けますでしょうか」。
 ウェイは難しい問題だと思いつつ、しばし考えて言った。
「昆明、西安などはすぐにはその目標を達成することはできない。だが昆明は潜在的な市場価値があるし、西安も各大企業がこぞって取り合う場所だ。ララ、君を批判するわけではないが、こんなことをしたら君自身がDBに居づらくなるんじゃないか?」。
「誰も昆明や西安を閉めるなんて言っていません。売上百五十万の下限を設ける他に、その下に但し書きとして、管理層が潜在力のある市場と認めたものというのがあります」
 ウェイは遠慮なく聞いた。
「管理層とは誰だ?」
「草案では暫定的に各BU(事業部)の長と決めています。最終的に営業担当VP(副社長)、財務担当VP及び人事本部長の合議で許可します」
 ウェイは首を横に振って言った。
「そんなことをしたら本当に自分の首を絞めることになる。何と言えばわかってもらえるんだろう。僕には本当のことを言ってくれ、レスターは君がこの仕事を引き受けたことを喜んでいないに決まっている。ハワードの顔色ばかり窺っていてはだめだ。彼は四年の任期が終われば中国市場から離れる。君は彼を追いかけていくつもりか? 会社は動かないが人は移動する。ララ、そのことをよく考えるんだ。ハワードに気に入られたい一心で社内中から嫌われるようなことをしてはいけない」。
 ララは彼の強い口調に血の気が引いた。
「その言い方はあんまりです。そんなこと、考えたこともありません。私のためを思って言って下さっていることはわかりますが、そんなつもりはありません」。
 ララはウェイがノートパソコンのディスプレイを見ているのを見ると、それ以上話す気は失せかけたが、それでもウェイをなだめるように言った。
「話せばわかっていただけると思います。マイナスの面だけを見ないでください。営業所の規範化による利益もあるかもしれないでしょう」。
 ウェイはララに視線を戻し、疑うような口ぶりで言った。
「利益があるなら反対しない。僕は営業で交渉を拒絶したことはない。しかし、利益はそう簡単に得られるものではないが」。
「会社で『seven habits(七つの習慣)』の研修を受けましたよね。全てのことには第三のソリューションがあります。誰にとっても利益になる解決法です」。
 ウェイはさして興味なさそうに聞きながら言った。
「営業所を閉める話をしているのに七つの習慣の話なんか持ち出して」。
 そしてまたもやヒートアップし、営業部の決まり文句を口にした。
「そんなことをして売り上げに問題があったら誰が責任を取るんだ?」
 ララはご機嫌を取って言った。
「SOPの第一条を見てください。目的として営業所管理を規範化するための標準業務手順書、とあります。営業所を閉鎖するためにこのSOPを定める、なんてどこにも書いてありませんよ。もう一度考えてみてください。営業所設置条件を規定すれば、少なくとも賞罰が明確になります。うまく行っているところには会社が好条件を提供し、うまく行っていないところと区別する。これは売り上げ促進になりませんか?」
 ウェイはララを横目で見て吐き捨てるように言った。
「ペテンだ。百五十万と言うならやってみろ」。
「一人当たり十五万売り上げれば一営業所で百五十万は確実に達成できます。一人一月あたり平均十五万の売り上げがなければ現状の営業目標も達成できませんから、営業部にとって問題だということになりませんか? 営業部に問題があるということはハワードにとっても問題になります。ですが、売り上げは私たちの問題ではありません」。
 ウェイは口調を和らげて言った。
「会社が決めたことならしっかりとやる。だがララ、どんなことでも実行可能性を考えるべきじゃないか? 在宅勤務では士気が下がるのは免れえない」。
 ララ依然として自信あり気に言った。
「それは我々がどのように社員とコミュニケーションをとるかにかかっていますね」。
「そうだな。君の方法によると、何か所の営業所を閉鎖することになりそうか、先に教えてくれないか? すでに営業部門に各営業所の売上データを調査させているんだろう?」。
 ララは正直に答えた。
「はい、過去十二ヶ月の月平均売上によると約十か所の営業所が閉鎖されます」。
 ウェイはすぐに不機嫌になった。
「そうなると思っていたよ。その十か所の営業所員はどうやって仕事をするんだ?」。
「各営業所との話合いの結果に基づくと、現在営業所の主要用途は二つです。一つは週一回の定例会議。二つにはマーケティング部が各営業所に送った書類や資料、様々なイベントに使うノベルティを配ったり保管したりしておくということです」。
「その二つの用途についてはどうやって解決するつもりだ?」。
 ララは筋を通して言った。
「会議はホテルの会議室を借りて開催します。財務部は都市ランクに基づいて各地域に会議場レンタル料を支給します。倉庫保管の問題については、すでにマーケティング部の配送ルールと管理要求を確認しており、仕入れ部門が営業部に協力して全国の主要都市で倉庫保管サービスを提供する物流会社と話をつけてくれるそうです。私たちは配送、荷受け、棚卸、出荷、検数、全て一元的に業者に任せれば、自社で各地の倉庫を借りるより安くつくし、営業部社員の荷受けと倉庫管理の手間を省くことができます。業者は毎月私たちの要求に応じた在庫明細書を提供可能で、マーケティング部の管理をサポートできます」。
 ウェイは真剣に聞きながら考えた。ララは本当にしっかりしていて、ニーズをはっきり理解している。またソリューションも詳細に考えてあり、ぬかりがない。ララさらに聞いた。
「まだ気になることがありますか?」
 ウェイはすでにほぼ納得させられていたが、すぐに決断を下せずに言った。
「そうだな、もう一度このSOPをじっくり見てみよう。それに三つの地域統括部長と話し合ってみる必要もある」。
 「そうですね、地域統括の下にいる営業所長は具体的な状況を最もよく把握しています。一週間後にまたご意見を伺いにきてよろしいでしょうか」。
「そんなに急ぐのか、できるだけのことはしよう。」
 ララは笑顔で、今日ご意見を聞けてとても参考になりました、帰ったらどう改善すればもっと良くなるか検討します、と礼を言った。
 ウェイは急に何か思いつき、ララを呼び止めて言った。
「君は利益があると言ったよな? 聞いた話では、僕の部下の荷受けと倉庫管理の手間は省くことができる。他にもっと具体的な利益があるのか?」
 ララは笑った。
「本当に頭が切れますね。では来週ここに来たときにどんな利益があるかお教えしましょうか。でも実は、どこから利益を生み出せるかお知恵を借りたいと思っていました」。
 ウェイも笑った。
「なんだ、海老で鯛を釣るつもりだったのか」。

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