« GO! ララ、GO! (23) | トップページ | GO! ララ、GO! (25) »

GO! ララ、GO! (24)

https://www.kanunu8.com/files/dushi/200805/553/3718.html

二十四 弟子が育てば師匠は失業

 

レスターはウェンホアとホンを呼び、二人にララを指導するように言った。

 レスターは他人に任せっきりにすることに慣れてしまっていたので、詳細のスケジューリング、たとえばどのくらいの時間が必要か、どんなプロセスで育成目標を達成するか、まず何を学ばせ次に何を指導するのか等々、具体的な話は全く進まなかった。彼らが指導計画を立ててもレスターはそれを自分に見せるようにとは言わなかった。

 これにはララも苦労した。右も左も分からない新任部長は何を質問すればよいかもわからない。ホンはもともとララに対する指導には乗り気ではなかったため、レスターが彼に具体的な育成訓練の目標と要求をしないのをいいことにいいかげんにララを振り回した。ホンは部下のレオンに命じて、地域の人事担当者募集をしている部門の給料構造や会社の基本的な福利厚生についてララにかいつまんで紹介させ、一時間弱の簡単なレクチャーでララの給与管理に関する教育の一部を済んだことにしてしまった。

 レオンは説明が終わると、礼儀正しくララに何か質問はあるかと尋ねたが、ララは人事について学び始めたばかりで質問もどうすれば良いのかもわからなかった。いくつか無理やりに質問をしたが、レオンは前もってホンに口止めされており、明快に答えることを避けた。結局、ララはその場では「わかりました」と言うしかなかった。

ララは、ちょうど稼働し始めた会社の新しい人事システムCITYRAYに非常に興味があったので、このシステムを担当するホンにサプライヤー向けの講座が行われるのはいつかと質問したが、ホンの回答は素っ気ないものだった。

「ララ、このシステムは君の普段の仕事では使わない。基本的には君の仕事とも関係ないし、学ぶ必要はない」。

ホンの狭量な言い草と自分を蚊帳の外に置こうとする態度にララは腹立ちを覚えたが、それ以上は何も言えなかった。

ララは部長昇進を希望し始めてから、人事業務の知識を早く身につけなければと焦っていたが、彼女が強く願えば願うほどホンは守りを固くした。特に彼女が給与福利厚生関連について勉強したいと言ったときには、ホンはあからさまに迷惑そうな顔をした。

ホンはDBに入社する以前はずっと中小企業で働いていたので、業務のスキルを身に付けるのもひと苦労だった。同業者に何か教えてもらおうとしても容易ではなく、自発的に教えるどころか、彼の勉強を阻止しようとしないだけでもありがたかった。しかし、ララときたらいい気なもので、今日はこれを教えろ、明日はあれを教えろと要求する。まるで彼女を教育するのが人事部長の職責かのようだ。技術は見て盗むものだということが全く分かっていない。それに弟子が一人前になれば師匠は失業してしまうではないか。ウェンホアはララにつきっきりで人材募集業務について教えているが、何か月かすぎたら、ララは彼の縄張りを奪ってしまうのではないかと心配だ。給与福利厚生業務は一年やそこらで習得できるものではないが、それでもララに教えるのは気が進まない。ララが突然人事総務部長に抜擢されたことにどうしても納得できないのだ。こんなに都合が良い話があるだろうか。社内の一歩ずつ昇進してきた人事部長に比べてあまりに不公平だ。なぜ自分が彼女のキャリアアップのために力を貸さなければならないのだ!

 ホンはこうした鬱屈した思いを抱えていたので、ララが新しい人事システムの使用方法を学びたいと提起すると、すぐに部下のレオンにこう言い含めた。

「システムのアクセス権限を営業所人事の担当者に与える必要はない。そんなことをしたらログオンできる人間が多くなりすぎてシステムのメンテナンスやセキュリティに問題が出る。この先、ララのteamがシステム内の資料を調査したり資料に追加情報を入力したりする必要が生じれば、申込書に記入して提出させろ。私が承認したら君が処理してくれ」。

 レオンは困ったように言った。

「それでは我々の業務量があまりに多くなってしまいます」。

ホンはこともなげに言った。

「人材派遣会社からパート社員を雇えばいい。守秘義務を守りパソコン入力ができるというだけなら時給が安いパートタイマーをいくらでも雇える」。

 ウェンホアのほうもララに対する具体的な教育訓練プランを持っていなかった。しかし幸いにもララの人柄はウェンホアの反感を買うことはなく、彼女に何かのついでに仕事を教えるだけなら、ウェンホアにとっても何も問題はなかった。ララはウェンホアがホンとは異なり自分に警戒心をもっていないと感じたので、人事管理について系統だったトレーニングを受けたいが、どんな講座に出ればよいかとアドバイスを求めた。

ウェンホアは親切心から彼女に以下の提案をした――政府の社会労働保障部が人材資源開発の一環として専門スタッフ資格試験を年に二回開催する。この試験合格を目指すのが最も適している。

ララがレスターに試験対策講座の参加を申し出たが、レスターはこの試験はたいして役に立つものではないと考えた。

「ララ、実際にはそういう講座で得られる知識はたった一〇%に過ぎない。そして約二〇%は経験者から教えてもらうこと。残りの七〇%はすべてon job training(実践の中での学習)から得るものなんだよ。この数字で明らかなように、実践こそ最も重要な学習だ。だからこそ、我々が人材募集をする際に最も重視するのは応募者の職歴なんだ」。

そうは言いつつも、レスターはララの申し出を拒否することなく、あっさりと受講許可を出し、会社が受講料を負担することも認めた。

ララは内心、ウェンホアの自分に対する指導は決して満足できる内容ではないと思っていた。ウェンホアのやり方は何かの仕事のついでに指導するというもので、系統だった教育訓練プランは皆無である。彼女は殊更に感謝することによって、二人のpeers(同僚)の積極性を引き出し、さらに圧力をかけて、自分の味方にしようと決めた。

ホンとウェンホアが彼女に対して行った教育を区別するため、またホンをより協力的にさせるため、そしてレスターに自分の研修状況を認識させるために、ララは総括報告を作成して、メール添付でレスターに送信し、同時にコピーをホンとウェンホアにも送った。

ララは簡潔な表を用いてこの総括報告をした。表は四項目の内容に分かれていた――訓練を受ける目的、訓練を受けた内容、facilitator(協力者)、効果と進展。簡単に言えば、誰からどんなことを教わったかということだ。

この報告がホンの恨みを買うことはわかっていた。しかしホンがこれからも出し惜しみして彼女に何も教えず、彼女の勉強を邪魔し続けるなら弊害はより大きい。

レスターはこの報告書を見て、すぐに二つの点に気づいた。一つはララが迅速に仕事をおぼえたということ、二つ目はホンがララを指導していないということである。彼はララの聡明さにひそかにうなずきながらも、ホンの自己防衛は少々滑稽であると感じていた。同時に、ララのこの報告は、ホンにはいささか厳しすぎるとも感じた。

山中の王者たる虎は、オオカミは怠惰でキツネは勤勉だなどと気にしたりしない。人の上に立つものは、器が大きく全体を見渡していればよいのだ。レスターはこの道理をよくわきまえていたので、個人に対する評価を行うことはなく、関係者の良好な協力関係をおおざっぱにほめるだけであった。

ホンはララのメールに気まずい思いであったが、レスターから何も言ってこなかったので、ララを適当に評価してやり過ごすことにした。ホンの横っ面を引っ叩いたララの報告書は空振りに終わり、ホンの態度が改まることはなかった。ララは、レスターが言っていたように七〇%の知識と経験は実践の中から獲得するものであり、自分自身に頼るしかないことを思い知った。

その日、ウェンホアは市場営業部門の製品部長採用のための一次面接にララを参加させた。ウェンホアは四人の応募者からまず二人を選び、第二次面接の準備を進めた。

  ララはウェンホアが二人の応募書類に印を付けたことに気がつき、興味津々で配属先ではどちらを選ぶ見通しかと尋ねた。ウェンホアはBだろうと答えたが、ララにはAのほうがBより優れているように思えたので、なぜAではなくBなのか不思議に思い、さらにその理由を尋ねた。ウェンホアはAとBのどちらも採用条件を満たしているが、配属先の上司のことを考えるとBのほうがうまくやっていけると感じたので、最終的にBを選んだのだと説明した。そこでララは疑問をぶつけた。

「採用は、主に応募者と職場のマッチング考慮するものだと思っていましたが」。

「業務内容が応募者の条件とマッチするかどうかだけでなく、応募者と直属の上司の相性も重要なんだ。配属先が求める任務を完全にこなすことができても、上司とそりが合わなくて辞めてしまったこともある。たとえば古株で強気な課長がいたとしよう。即戦力がある部下が採用されるのを期待している。そのときは平凡な能力しかない人を採用してはならない。また、事細かに部下を管理することを好む部長に、上司にあれこれ口出しされたくない人間をあてがってはいけない。でなければ後で上司と部下の間に対立が起こってしまうからね。他には、短気な課長がいた場合、のんびりした気の長い部下では困るだろう。新しく抜擢されたばかりの新米部長なら、彼がコントロールできる部下かどうか注意して、おとなしくて言う事を聞く人間を選ぶ。もし新米の部長に有能で短気な部下を配属してしまったら絶対にうまくいかない」。

「部長になって間もない人に、おとなしい新人ばかりをあてがって仕事がきちんと進まなくなった場合はどうするのですか?」

「その部署の現状を観察して、部長と話し合う。部長を含めて全員がおとなしくて聞き分けのいい新人ばかりだったら誰が仕事を進めるのかと部長の自覚を促す。仕事が終わらないなら君は部長としての立ち位置にいられなくなるよって部長に言い聞かせる」。

「なるほど。ウェンホア、あなたは本当に大したものですね」。

ウェンホアは笑った。

「この仕事に就いて長いからもう慣れっこだ。でもララ、君にはまだ仕事に対する情熱がある。きっと成功するよ。君が昇進したとき、ジェイソンからシニアスタッフになりたいからレスターに口添えしてくれないかって頼まれたが、私は言ったよ。ララはハワードの『秘蔵っ子』なんだからレスターに期待なんてしないほうがいい、ってね」。

 彼の話は事実だ。ララはどう反応すればよいかわからず、ただ笑うしかなかった。

ウェンホアには「油断できない人間」という呼び方がぴったりだ。普段は真面目で、誰の悪口も言わないので、ララには彼が今日公然とレスターを批判するのにはどういった意味があるのかわからなかった。ウェンホアはコンピュータを片付けながら言った。

「忙しい一日だった。ララ食事をごちそうしよう」。

ララは慌てた。

「今日は私におごらせてください。私は多くのことを教えていただきました」。

「私はいつでも喜んで教えるよ」。

食事しながらウェンホアは言った。

「ララ、本当に仕事のやりがいがないよ。困ったことがあってもレスターの助けを得られたことがない。悪くすると説教される。もう何が起きてもどんな問題が山積みでもレスターには相談しないで、自分で解決方法を考えるようになった。彼は給与福利厚生業務ばかり重視している。ホンとレスターはまるで息子と父親のようだ。もう少したてば、君も私の言っていることがわかるようになる」。

 ウェンホアは激して、普段のように理路整然とした話し方ではなくなっていた。ロジックに欠け、レスターの落ち度を次々にあげつらった。ララは意見をさしはさむこともできず、座っまま無言で聞いていたが、幸いにもウェンホアは彼女の意見を必要としていなかった。

「社長と交渉が必要なときも、レスターはずっと表には出ず、部下のピーターをハワードのところへ行かせていた。彼の部下になると、この類の困難はつきものなんだよ!」

ララは答えかね、バツの悪さをごまかすために、ひたすらウェンホアに酒を注いだ。ウェンホアは一杯ぐいっと煽って、続けて言った。

「我々のレスターにはまだ特徴がある。職責上、明らかに彼が決裁しなければならない決定事項でも必ず部下をその仕事とは無関係な本部長のところにまで差し向けて順々に意見を聞いて回らせ、最終的には全体意見として決定を下す。常に万が一何か間違いが起こることに備えている。つまりレスターひとりの意見で決めたことではないと言い訳できるからだ。こんなんじゃピーターは心身ともに疲れきってしまうに決まっている!」

ララはウェンホアがレスターを咎めるのを聞きながら、意味もなく自分にこの話をしている訳ではないと考えてこう尋ねてみた。

「ウェンホア、何か考えがあるのですか?」

ウェンホアは笑った。

「どういうつもりもないよ。レスターと一緒だ。適当にやってればいいんだ。言ってみれば、あれだけ保身に走れる人間はいないよ」。

 ウェンホアと別れたあと、ララが腕時計を見ると、すでに夜十時を回っていた。彼女はゆっくりと交差点に向って歩き、ホテルに帰ろうとタクシーを止めようとした。

その時、一台の黒いアウディが彼女の近くを通り過ぎた。彼女は無意識に運転手をちらっと見た。車のスピードはゆっくりで、街灯の暗い光の中でもそのカールがかかったロングヘアの美人を見ることができた。ララはその瞬間は気にしなかったが、車が過ぎ去ってから彼女は突然気がついた。あれはウェイの車だ! ウェイはこの二日間北京に帰っているが、誰が彼の車を運転しているのだろうか? ララは衝動的に携帯を取り出しウェイの番号にかけた、ウェイの「もしもし」と声が聞こえたとたん、彼女は突然通り過ぎたあの美女が誰なのかわかった。彼女はすぐに電話を切った。心臓はばくばくと激しく脈打っていた。ウェイはすぐにかけ直してきた。ララは携帯のディスプレイの「ワン・ウェイ」の文字を見て、十秒ほどためらってから通話ボタンを押した。

「さっき電話した?」

「うっかりまちがえたの。ごめん」。

「どうして何にも言わずに切ったの?」

「もう遅いから迷惑かなって思って」。

「まだホテルに帰ってないのか?」

「ちょうど帰るところ」。

「仕事が終わったらはやくホテルに帰らなきゃ。いつまでもオフィスにいちゃダメじゃないか」。

ララはうんと言った。

「またハワードとマンツーマンで話してたわけじゃないよね?」

ララは動揺し、彼を遮った。

「タクシーが来た。もう乗るから」。

「そう。じゃ、ホテルに着いたらまた電話して」。

ララは、はいはいと言って電話を切った。ウェイはララがホテルに着くまでの時間と入浴の時間も計算して、ララが電話をかけてくるのを長いこと待った。彼が焦れて彼女の携帯に電話をかける頃には、彼女はもう電源を切っていた。ウェイは少しためらったが、ララの部屋に電話してみることにした。しかし、ホテルのフロントはお客様はもうお休みになるので電話を取り次がないようにとのことです、と告げた。ウェイはあきらめたが、心の中は疑念が渦巻いていた。彼はララが言っていた電話番号を間違えたという話が信じられなかった。

彼女は何の用があったのだろう?

なぜ何も言おうとしなかったのだろう? 

|

« GO! ララ、GO! (23) | トップページ | GO! ララ、GO! (25) »

翻訳」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« GO! ララ、GO! (23) | トップページ | GO! ララ、GO! (25) »