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GO! ララ、GO! (23)

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 二十三 You deserve it!の二つの意味

 ララは広州でレスターの電話を受け、異動と昇進にともなう変更について詳細を知った。レスターはそれまでララの要求を常に退けてきたが、彼女は今回その行動が理解できる気がした。仮に自分がレスターの立場なら、じきに定年退職を迎えようというときに、社長の考えを忖度でもしなければ、会社が定める勤務地で働きたがらない部下のために前例を破ることはしなかっただろう。ハワードが意見を明確に示してからレスターはようやく積極的に動き始めた。ララは各営業所の人事業務が自分の担当となったことに特に感謝していた。

  四十六%の昇給に至っては、ララの期待をはるかに上回るものだった。彼女は感激しつつも、リフォームプロジェクトを任せられた際にレスターが出した特別手当てが五%だったことが自然と頭に浮かんできた。

 電話の向こうにいるレスターは、ララの思いを知ってか知らずか、あるいはこれまでララに辛く当たりすぎたと思ったのか、ララが述べる感謝の言葉を聞いても軽く受け流し、簡潔に誠意をこめてこう返した。

You deserve it.(君にはその価値がある)」。

 レスターはその言葉を口に出した瞬間、あることを思い出した。ローズが杜撰な予算とタイムスケジュールで自分に危険な罠を仕掛けたことに気が付き、やむを得ず急いでローズを昇進させたときにも、彼女に対して心にもない言葉をかけた。

You deserve it.」。

 電話の両側でララとレスターはともに感慨にふけり、一瞬の沈黙が訪れた。ララはハワードが言ったことを思い出した。

「レスターは寛容なボスだ。彼には彼の特徴がある。君はこれからも彼の部下であることに変わりない」。

 ララはレスターのもとでしっかりと部長を務めてボスに認められようと決意し、レスターもララの誠実さを感じ取った。かつて心にわだかまりを持っていた者どうしが和解しよい関係を築く以上に気持ちの晴れることはない。

 人員配置について話が及ぶと、ララはヘレンをアシスタントに昇格させたいと提案した。ヘレンはすでにDBの広州オフィスで七年間にわたってフロントスタッフを経験しており、現在二十七歳になる。物事を深く考えない性格ではあるが、ララのもとで大きく成長した上に、ララとは互いに気心も知れている。SC(South China)のアシスタントには適任で、レスターも二つ返事で了承した。

 ヘレンはあきらかにララの昇進のおこぼれにあずかった形になり、広州オフィスではヘレンを見かけて冗談を言う者もいた。

「テンテン、羽振りがよさそうじゃないか」。

 ヘレンはララに「控えめに」と釘をさされているのを思い出し、一生懸命に謙虚にふるまおうとするあまり却って同僚の爆笑を誘う結果となってしまった。

 ララは間もなく上海に出向いてウェンホアのもとでリクルートについて学ぶことになった。彼女は呑み込みが早く何事も適切にこなしたのでレスターも非常に満足し、誰彼なしにララの自慢をした。また、気が向けばララに仕事のコツを教えることもあり、そんなときにはララは頭がいくつあっても足りないほど熱心に頷きながらすらすらとノートをとった。レスターはララが渇いたスポンジのように知識を吸収していく様子に感心し目を細めた。

 教えたい者と学びたい者が出会うことは大きな喜びである。機会さえあれば、ララはレスターの経験の豊かさを称賛し、レスターはララの聡明さを褒めた。二人はもっと早くからこの関係が築けていたらとまで思ったが、それを見るにつけ憤懣やるかたない思いにかられ、歯ぎしりをしながら「レスター、いつか必ずお前に“You deserve it” には二つの解釈があることを思い知らせてやる」とひそかに呟く者がいた。

 英語の“you deserve it”には二通りの解釈がある。よい意味で用いられる場合は「名実相応」(君はそれに値する)、逆の場合は「自業自得」(ざまあみろ、当然の報いだ)となる。英語では両者を区別せず“you deserve it”と表現するが、つまるところ「あなたはこれこれの事をした、それゆえこれこれの結果になった」という因果関係に重点を置き、「当然の結果だ」という意味を表す。

 ララは、相変わらず残業続きだった。ハワードは一日の仕事が終わると、退勤前に思い出したようにララを頻繁に自分のオフィスに呼んで質問したり仕事を与えたりした。ララも難題を抱えているときにはハワードの意見を求めることがあった。

 ウェイは、残業をしているときにララがハワードの部屋に入って一時間あまり出てこないのを二回ほど目にした。しかも彼女がハワードのアシスタントに面会のアポイントを取っていないことは明らかだ。一度はハワードがホワイトボードに図を描いてララに何かを説明しており、ララは顔を上げて全神経を集中させて聞いている様子だった。

 ウェイはやや苛立ちを覚え、後日やっかみ混じりの口調でララに言った。

「随分偉くなったもんだな。One on one(マンツーマン)で授業を受けるなんて」。

 ララは「知らないことが多すぎていろいろとご指導を受ける必要があるんです。明日にでも、あなた様に人生の真諦を教えていただきたいものですわ」と言って取り合わない。ウェイはいかにも不満そうに言葉を続けた。

「ハワードは営業担当社長か、それとも総務担当社長か。社長のDirect report(直属の部下)は本部長だろう。時間があるなら我々本部長とコミュニケーションを取るべきなのに、なんだって君とあんなに熱心に話をするんだ。総務がどれだけいい仕事をしたって会社の儲けにならないじゃないか。それに君は本部長のレスターが指導してくれるだろう。レスターの頭越しにハワードとあんなに頻繁に接触して!」。

「だったら私からハワードにあなたがご不満だってお伝えしましょうか!」。

「いいさ。君は社長のお気に入りだから何でも話せるだろうよ!」。

「私は誰よりも努力しているのよ! I deserve it!」

「いい気になるな。いつか手痛い目にあうぞ。You deserve it!」  

 ララは怒りのあまり思わず口走った。

「あんたの良心はダーダーディホアイラ!*1 スーラスーラ!*2



*1
「ひどく悪い」を意味する抗日戦争時の日本兵中国語

*2「死ね」を意味する抗日戦争時の日本兵中国語

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