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GO! ララ、GO! (19)

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十九 ボトムアップかトップダウンか

 ララは胸に不満をため込んでいた。部長にならなければ決して諦めきれない。

  転職活動が思うようにいかず、ララは考え直すことにした。DBほどいい会社はめったにない。入社するのも難しかったのに簡単に辞められるだろうか。自分はすでにDBから十分な見返りを受けることができたのだろうか。

  もう他の方法は思いつかない。やはりハワードに相談しよう。ハワードのオフィスを訪ねるのはかなりの勇気が必要だが、自分が行動に移さなければ誰も助けてくれないことはよくわかっていた。

  ヘレンはララが仕事中にあらぬ方向を見つめてぼんやりしているのに気がついた。退社時間になっても心ここにあらずといった様子で帰ろうともしない。

 ララは様々な話の切り出し方を検討していた。何種類もの会話をシミュレーションし、想定しうる限りのハワードの反応を思い描いた。しかし、実際に上海オフィスに行き、ハワードと面と向かうと何も言えなくなってしまった。

その日、ハワードはララを見かけると、そういえば数か月も顔を見なかったと思い、親しげに声をかけた。

「ララ、僕のオフィスで話でもしないか」。

 二人は腰を掛けると、ハワードはララに向かってにこやかに尋ねた。

「最近はどうだい?」

 ずっと心に抑え込んでいたことが口をついて出た。

Howard、私、総務部長になりたいんです。この希望についてのご判断を聞かせてください」。

  ハワードは落ち着いた調子で問い返した。

「上海で働きたいかね?」

 ララは考えを曲げなかった。

「今のところ、まだ上海に来るつもりはありません。私のベースは広州です。でも出張はいつでもします」。

 「わかった。レスターに伝えなさい。私は君が広州にいても総務部長の役職をしっかり果たせると考えている」。

  こんなにもあっけなく結論が出るとは想定外だ。レスターとの終わりなきシーソーゲームを経験してきたララの戦闘意欲はいきなり出鼻をくじかれ、自分の耳を疑った。あるいはハワードの言葉の意味を誤解しているのだろうか。

  ララは早まる鼓動を落ち着かせ、できるだけ平静な声で頼んだ。

「それでは社長からレスター本部長にお口添えいただけないでしょうか」。

  ハワードは微笑んで言った。

「ララ、通常の社内手続きとしては、昇進を希望する社員の部門長から提案することになっている。その社員を指揮する部門の長だからこそ業務に必要な人材と昇進候補者の現在の働きぶりや能力を最もよく知っているからね。そして、その起案を行った部門長が昇進を検討する部下の直属の上司および人事部と話し合い、候補者が昇進の資格を備えているか審査するんだ」。

  ララは恥ずかしそうに「わかりました」と答えた。

  ハワードは付け加えた。

「だから君の上司であるレスターが私に君の昇進を申請しなければならない。私が彼の部下を昇進させるために申請書を出すよう彼に言うことはできないんだよ。部下の昇進は直属の上司が判断することで、その上司の上役とHRがその昇進が合理的で社内規定に合致していることを審査し保証する監査の役目を担っている」。

  ハワードは少し間をおいてから笑って言った。

「ふつうは上にいる者に使いたくない部下を無理に押し付けるようなことはしないよ。いま君がレスターの頭越しに私を訪ねてきたことは理解できる。だが、実際には正しい手続きとは言えない」。

  ララはハワードの柔和なコバルトブルーの目を見つめ、やりきれない様子でつぶやいた。

「この件はレスターに何度か願い出ましたが、いつも断られました。社長が反対するからという理由で」。

 「レスターに伝えなさい。私の意見は君の昇進に賛成だ。問題は何もないと」。

  ララは不安気に「私から言うんですか」と聞いた。

  「安心しなさい。彼は君の言葉を信じるよ。確かに私の意見で君の作り話ではないとね」。

  ララはすっかり嬉しくなり、お礼を言って部屋を出ようとした。

  ハワードはララを呼び止めた。

「ララ、レスターのところに行ったら、最初は私の考えを言わずに、君から昇格を再度願い出て、それでもだめなら私が賛成していると言いなさい。わかったね?」。

  ララはハワードの意図を汲み取って「わかりました」と答えた。

  ハワードはさらに念を押した。

「レスターとちゃんと話すんだよ。彼は寛容な上司だし良いところがある。君はこれからも彼の部下に変わりないんだから」。

  ララは「わかっています、安心してください」と約束した。

  ララは社長室を出たがまだ信じられなかった。あまりにも簡単に、戦いは十分で決着がついた。ララが悩みに悩んで考えたもっともらしい話の切り出し方は何ひとつ役に立たず、ハワードの反応も彼女が想定していたものとは全く違っていた。

  ララは足が地につかない様子で廊下を何度か行ったり来たりして気持ちを落ち着かせてから、ようやくレスターの部屋を訪ねた。

  レスターは彼の頭痛の種――名うての頑固者のララ君――がやって来るのを目にするや、頭がズキズキと痛みだした。レスターは戦いに備えて無理やり気力を奮い立たせ、得意のハリウッドスター級の笑顔でララを迎え入れた。

  ララも微笑んで挨拶をし、ハワードと話しあったとおり一切の前置きなしに切り出した。

「レスター、私を総務部長にしていただけませんか」。

 レスターは心中で「ああ、またか。今回は遠まわしではなく正面からぶつかってきた」と呟いた。

  レスターは辛抱強く言った。

「ララ、君は広州にいるが。この部署は上海に設置しなければならないんだ」。

 「喜んで出張します」

「本部を上海に置いている関係で管理業務の多くがここに集中している。君が広州にいるのはやはり都合が悪い。急に問題が起こったとき部長が本部にいないと問題になる」、とレスターは辛抱強く説明した。

「ローズが病気休暇をとったとき、私はチーム編成が不十分な状況下でこの部門を半年以上ひっぱってきました。各部門から高い評価を受けたことはボスもご存知ですよね。私にはこのポストで仕事をこなす自信があります」。

 互いの主張は以前に何度か行われた話し合いと変わらず、同じレールの上を進んでいるかに見えた。だがレスターは、今日のララにはこれまでとは違う有無を言わせない雰囲気がある、何かあるに違いないと心中いぶかしく思った。徐々に様子を見て確かめるしかない。そしていつものセリフを口にした。

「昇進はハワードが反対するだろう」。

 ララはまさにその言葉を待っていた。

「ハワードは反対しません。賛成だと言って下さいました」。

 レスターは飛び上がらんばかりに驚いた。ハワードの意見は言うまでもなく彼の予想に反していたが、ララの作り話ではないと判断し、すぐに尋ねた。

「ハワードはいつ、そう言ったんだ?」。

「つい先ほどです」。

「誰にそう言った?」。

「ボスがお困りのようでしたので、今日、私が自分でお願いに行きました。それで、同意すると言っていただけたんです」。

「ララ、このあと会議があるから、終わってからまた話をしよう」。

 「わかりました。ではお先に失礼します」。

 翌朝、ララが出社すると、ハワードの社長室でレスターとハワードが話をしているのがガラスのパーテーション越しに見えた。レスターはララに背を向けて手振りをしており、ハワードは朗らかな表情で笑っている。レスターの話はハワードの意向にまさに適っているようである。ララは自分の話をしているのだと思った。

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