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GO! ララ、GO! (18)

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 十八 職場の鉄則:mailは慎重に! 

 転職活動ははかばかしくなかった。広州オフィスの仕事をララは本職と思い定め、自分を励ましつつ手ぬかりなく務めていた。

 その日、ララがパソコンの画面に映った予算表を食い入るように見つめていたとき。一人の男性が彼女の前に立って咳払いをした。顔を上げると、それはウェイだった。 

 ウェイは、手にしていたダスターコートをそばに置いて勝手に座った。

 ララはいささか驚いて「いつ広州に来たのですか?」と尋ねた。 

 ウェイはその質問には答えず、逆に聞き返した。「三か月以上も上海に顔を見せなかったじゃないか。なぜなんだ?」 

 ララは事もなげに「二週間前に研修に行ったばかりですよ」と答えた。 

「いや、見かけなかったぞ」、とウェイは首をかしげた。

 ララは「三日間ずっと会議室に閉じこもっていたので廊下をウロウロする時間もなかったんです。だから見かけなかったんでしょう」と言い訳した。

 ウェイは少し腹立ちを覚えた。三か月も会えなかったのに、ララは別に再会を待ち望んでいたわけではなかったのか。彼は自分の感情を抑えて軽い調子で言った。

 「研修に参加していたんなら、昼休みにでも声をかけてくれればよかったのに。君が上海にいることを知っていたら、夕飯くらいご馳走してたよ」。

 ララは「お時間があれば、今晩は私にご馳走させて下さい」と微笑んだ。

 それを聞いてウェイはすっかり嬉しくなり、すぐに「約束だ」と言った。

 そして立ち去ることもなく、そのままララのそばに座ってじっとララを見ている。 ララは落ち着かなくなり、「私、また何か失礼なことをしました?」と聞いた。

「痩せたみたいだね。仕事がきつすぎるんじゃない?」

 ララは少しうつむいて自分の体を見て、「痩せ気味の方が服を選びやすいですから」と答えた。

「時間があればエステに行ったらいいよ。顔色が良くなるから」。

「これは今の流行色でヌーディーカラーと言うんです。今はヌーディーカラーのチークが売れているんです」。

 ウェイはそれには答えずビジネスバッグを開いてお洒落な紙袋を取り出し、ララに渡した。

 ララは突然のことに驚き、「私に?」と聞いた。

 「君にセールスするつもりはないよ」。

 オフィスでは人目に立つのも都合が悪いので、ララは目顔で微笑んで受け取るしかなかった。「今晩は美味しいものをたっぷりご馳走しますからね」。

 ウェイは、外国の顧客が受け取ったプレゼントをその場で開けて喜ぶことに慣れていたので、ララが自分が渡したプレゼントに少しも興味を持たないのを見て、たまらずに言った。「プレゼントした理由を知りたくない?」

 彼女はお得意のとぼけた顔を作った。「いまどれほどのお値段か聞こうと思っていたところなんですよ」。

 話をそらされまいとして、ウェイはララの目を見て「どうだろう。人によって答えは違うだろうね。たとえば、僕にとっては価値のあるものでも君にとってはどうかな」とささやいた。

 お互いに言いたいことはわかっている。だが、ララは今、会社の本部長に返事をすべきか、それとも一人の男性に返事をすべきか、とっさには判断しかねていた。

 ウェイは黙って彼女の顔を見ながら返事を待った。ララは気づまりに感じ、うつむいてパソコンの画面を見た。その場の空気はたちまち愉悦の重みとなって二人を包み、ある種の冒険への憧憬がお互いの口を開かせようとした。

 数分間の沈黙が流れ、ララがようやく話の糸口を探しあててウェイの出張理由を聞こうとしたとき、ヘレンがバタバタとララを呼びに来た。ウェイは「忙しいみたいだね」と言って立ち上がった。

 夜、二人は、沙面のレストランで夕食を共にした。店を出ると、ララはもうそろそろ帰らなくては、と言った。

 ウェイは彼女を帰したくなかった。本部長の立場も忘れて「まだ早いから場所を変えよう」と引き留めた。

 ララは「顔色がよくないって言ったじゃないですか。早く寝ないともっと顔色が悪くなっちゃう」と彼をからかう。

 ウェイは真顔で言った。「顔色が悪くても、きれいだよ」。

 その言葉に、ララの心が震えたが、なんとか冷静さを装って言った。「たいして飲んでもいないのに、酔ったふりして冗談なんてやめてくださいよ」。

「ララ、真面目に聞いてくれ」。

「いいですよ。おほめいただきありがとうございます。でも、自分でも悪くないとは思っていたんですけどね」。

「じゃあ場所を変えて、一杯付き合ってくれないか。十一時前に必ず家に送り届けるから」。

 ララはためらった。「十一時? もう冬なのに」。

 ウェイは一歩近づき、自分を見上げるララの瞳を覗き込んだ。ララは思わず目をそらした。ウェイは「ララ、もう三か月以上も会えなかったのに、どうしてそんなふうなんだ」とため息をついた。

 ララは口ごもりつつ「どういうことなのか、まだよくわからなくて」と言った。

 手を伸ばしてララの肩を引き寄せ、ウェイは彼女を見つめてた。「遊びなんかじゃない」。

 冬の暮色がララのほんのり上気した頬を覆い隠し、彼女はわずかに顔をそむけてウェイの視線を逃れた。「それは、わかっています」。

 「じゃあ、19201920 Restaurant and Bar、広州市内のドイツ風レストランバー)に行こうか?」

「はい、でも十一時には帰ります」。

 ウェイは彼女の手をとって歩きだした。

 ウェイはララにベイリーズカクテルを注文し、ララはバーテンダーが作った味がとても気に入った。1920の灯りの下で、ずっと重苦しかった彼女の心が喜びと寛ぎに満たされていった。二人は談笑しながらグラスを重ね、楽しい時を過ごした。

 ウェイは約束どおり十一時になるとララを家に送った。タクシーがマンションの前に停まると、ララはウェイに車を降りずそのままホテルに戻るようにと言った。

「ここならタクシーを呼びやすいから、ロビーまで送るよ」。

 ララが固辞すると、ウェイは「じゃあ、ロビーには入らない。少しだけ一緒に歩きたいんだ。いいだろう?」と言った。

 ララは断り切れなくなった。何歩か歩いてから、ララは「もう大丈夫です、あとちょっとなので」と言った。

「わかった。ロビーに入るまで見ているよ」。

 ララが数歩行くと、ウェイはまた彼女を呼び止め駆け寄って来た。

 ララは彼の言葉を待った。少し躊躇ってから「ララ、上海は嫌かい?」と彼は尋ねた。ララは小さい声で言った。「先の事はまだ分からないけど、今はまだ上海で暮したいとは思えないんです」。

「僕は明日、上海に戻る。重要な会議があって急ぎで戻らなければならない。君が次に上海に来るのはいつ?」

「まだわかりません」。

 ウェイは仕方なく「じゃあ、mailをくれよ」と言う。

 ララは他人行儀に「何かあればお電話します。電話の方がずっと便利ですから」と答えた。ウェイは少し間をおいて言った。「電話したくなったらいつでもかけてくれ。どんなに夜遅くてもかまわない。携帯の電源を切らないよ」。 ララは無意識に距離を保った。「そんなの失礼です。やっぱり勤務時間中にかけますよ」。 ウェイはこらえきれなくなった。

「話をそらさないでくれないか」。

「分かりました」、とララは笑った。

「電話だけじゃなく、時間があればmailして」、とウェイは念を押した。

「はい。mailは誰が何を言ったか誤魔化せないところがいいですよね。全て会社のサーバーに保存されていつでも記録を調べられますから」。

 ウェイは憤然とした口調で「君は僕を脅すつもりなのか」と言った。

「脅すなんて。本部長、社用mailは慎重に、というのが職場の鉄則ですよ」と言いながら、彼女は愉快そうに笑い出した。

 ウェイは暗がりに浮かんだ彼女の華のような笑顔と街灯の照り返しに映える艶やかな肌を見て、思わず手を伸ばし彼女の頬に触れようとした。ララは笑っていたが、彼が手を伸ばしすのを見て反射的に振り払った。

 ウェイはバツが悪そうに手を引っ込め「ごめん」と謝った。ララも顔を赤らめ「私をからかっているの?」と聞いた。ウェイはいかにも気まずそうな顔で言った。

「人聞きの悪い言い方をしないでくれ。僕は君をいい同僚だと思っている」。

「そういうことですよね。私のことをいい同僚だと思っている。ところで、いつかは結婚するおつもり?」

 ウェイは急に用心深くなった。「もちろん、いい人がいれば」。 ララはからかい気味に「いい同僚とは?」と尋ねる。ウェイは「ないとは言えない」と慎重に答える。

「ついさっき、私のことをいい同僚と言いましたよね」。

「ララ、僕を罠にかけたのか?」とウェイは真顔で聞いた。

 ララは彼の言葉を理解できないふりをした。「罠だなんて! 私たちの友情がずっと変わらず続くようにするためですよ。明日、顔をあわせたときに気まずい思いをしなくて済むように」。

「僕は、先のことはわからないが、今のところは君をいい同僚だと思っている」。ウェイの言葉には何の説得力もなかった。

 ララは頷いた。「私もそれに百%賛成です。ですから、私がいまお話したことは、つまり現段階ではお互いに普通に接していよう、という提案なんです」。

 ウェイは答えなかった。 ララは続け

「私はどちらでもいいんです。今になっても部長にもなれないし。でもあなたは会社では前途洋々ですもの」。

「僕は誰に対しても誠実だよ」と言いながら、彼は我ながら何て空々しく中身がない言葉なんだろうと感じていた。

「だからこそ、私も誠意を込めて提案したんです」。

ウェイはため息をついた。「わかった。君の言う通りにしよう」。

 

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