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GO! ララ、GO! (16)

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十六 最後のローズ

 ララが広州に戻り、ローズは職場復帰した。

 バンド界隈にその名を馳せた華やかな上海美人、誰もが思わず振りかえったあのローズが、今や路地裏で雨に打たれるライラックになっていた。口さがない連中は、運命に弄ばれたのか自ら招いた結果なのか、と噂しあった。
ローズの腹部は平らで、レスターに子どもは流れてしまったと打ちひしがれた様子で報告した。レスターは慈愛に満ちた祖父のように彼女を慰め、二人は和やかに昼食をとった。

 現在のレスターは世界で最も気楽で快活な人間である。プロジェクトは順調に完了し、ローズも帰って来た。これからはもう総務部門の業務を心配しなくともよい。この半年間、基本的にはララが一人で総務部を引っ張ってきたが、何といってもまだキャリアが浅いので常に傍で見ていなければならなかった。今はもうその心配はない。以前のように指示だけ出しておけば済む。彼はララに対して賢明な対応をして幸いだったとひそかに喜んだ。でなければ、ローズが急に戻ってきた今、二人の総務部長を前にして頭を抱えていたことだろう。

 ローズはレスターのおごりで昼食を終えると、オフィスに戻って頭を切り替えた。ドアを閉め、素早く受話器をとってララに電話をかけ、猫撫で声で言った。「お疲れ様だったわね。近いうちにお食事でもご一緒したいんだけど」。

 ララはローズのお腹が平らであることはすでに聞いていた。彼女は前々からそんなことではないかとは思ってはいたが、ローズのプライベートに関わる気はもともとない。お腹の子について聞くのもはばかられ、他に言うべきことも見つからなかったので、ララはただ「お久しぶりです。私にご馳走させてください」とだけ言った。

 ローズは親しげな口調で「どっちがごちそうしても同じよ。ずいぶん会ってないから、おしゃべりでもしたいと思って」と言った。だがローズといったい何を話すべきなのだろう。

ローズが会社から帰ると母が愚痴をこぼした。「家にはやらなきゃいけないことが山ほどある。私は家でも外でもバタバタで、いっそ千手観音にでもなりたいくらい。それなのにお前はこんなに遅くまで何をしていたのよ」。

 ローズは「会社でちょっと片付けておくことがあってね」とローズは適当に返事をした。

母は興味津々で「お前がいなくて、あのプロジェクトうまくいったの?」と尋ねた。
 ローズはだるそうに「あのくそまじめなララが全部一人でやってのけたわよ」と答えた。
 ローズの母は意外に思った。
「なかなかやるじゃない。なら彼女に仕事を任せて、お前は自分のことを早く済ませればいい」。
「レスターは彼女を昇進させるはずがない。でも実際にはララは部長候補に最適だわ」。
 ローズの言葉の端々には、彼女がレスターという人間を見抜いていることが表れていた。
 ローズの母は「私たちとはもう関係ないんだから、やりたいようにやらせれば」と娘をなだめた。
 ローズは悔しそうに言葉をつづけた。「レスターもひどすぎる。ララみたいないい部下をつけるのはもったいない」。
 「お前は彼にはララを昇格させる気はないと言ってたじゃない。ほうっておきなさい」。
 ローズは冷笑を浮かべて言った。「ふっ、そのうちララを昇格させたいと思う日が来るわ」。
母はまだくどくどと「お前もいいかげん図太いよ。半年間もおなかが大きいふりをして。今日は会社で彼に子どもは助かりませんでしたって報告したとき、彼は信じてたの?」と聞く。
ローズの眉がピクリと動いた。「信じるわけない! 一度だって信じてくれたことなんかないもの!」。
 ローズの母は驚いて、「それなら会社に戻ったのはどういうつもり? もう会社のことに関わっちゃだめよ。DBから半年も有給休暇をもらってヨーロッパで羽を伸ばしてきたんでしょ。それで少しは鬱憤も収まったんじゃないの」と言った。
 ローズは適当に「うん、うん、わかってる」と返事をした。

 翌日、ローズが出勤して最初にしたことは、口実を作ってララを上海に呼ぶことだった。ララは体調が悪いからまた今度にしてほしいと面倒くさそうに断った。
ローズは待ちきれず、すぐに自分で広州に飛んだ。ララに会うと笑顔を作って手を握り、「お疲れ様、また痩せたわね」と親しみを込めて声をかけた。
ララは仕方なく元気を奮い起してローズとレストランに出かけた。贅沢に慣れている彼女だけあって、選んだ店の雰囲気は最高で、ラタンの椅子に沈み込むと気分がだいぶほぐれてきた。

ララは自分自身に言い聞かせた。ローズはここにはいない、私は息抜きのために一人でここへ来たんだ。

 ローズはララが以前のように自分に対して丁重な態度をとらないことにはこだわらず、注文の際にもララに気配りして意見を聞いた。ウェイターがメニューを下げると、ローズはやっと水を一口飲んで微笑みながら言った。「ララ、前よりたくましくなった感じね」。
 ララは「前と変わりませんよ」と謙遜した。
 「いいえ、今は自信に満ち溢れている」。
ローズがことさらに褒めるので、ララは彼女がここに来た目的は何だろうかと考えながら、ララは笑顔を作って言った。
「自信だなんて。働くしか能がないだけです」。
「違うわ、私は感じるの。以前よりもずっとできる人になっている、競争力も前よりもずっと高くなっている。これは今回のプロジェクトで身につけたものよ」。
ララはなんと答えればよいかわからず、うつむいて水を飲んだ。
「あなたの実力は今や課長のポストを明らかに超えている。レスターに昇進のチャンスがあるかどうか聞いた?」。
その話だったのね、とララは思い、ローズの方を見て何も答えずに曖昧に笑った。
 ローズはララに顔を近づけてささやいた。
「私はレスターの性格をよく知っているから今のあなたの思いが痛いほどわかる。だって私は彼下であなたと同じ経験をしてきているもの」。
 そしてララの手を強く握り、励ますように言った。
「気を落とさないで。あなたには部長にふさわしい実力がある。DBがそのポストを与えなくても市場は与えてくれるはずだから」。
ララはますます何も言えなくなった。握られた手を引っ込めたかったが、それも気が引けた。

 ローズはララの手を放し、さらに熱心に話し続けた。
「ララ、あなたは以前レスターの直属の部下ではなかったから気づかなかったかもしれないけど、この半年間仕えてきて彼のやり方がわかったでしょ。私は自分の都合でこんな話をしているんじゃないのよ。だって私が産休を取った後にようやく復職したとしても彼は絶対に私のポストを他人に渡さないで待っている。休職したって私のキャリアには何の影響もないもの。だからあなたが気の毒で仕方ない。昇進や昇給を待っていても彼は何もしてくれない。優秀な社員は彼の下では不満を抱かざるを得ない。逆に仕事ができない社員はサボり放題で何のペナルティもない。この半年間、彼と一緒にやってきたんだから私の言っていることを誰よりよく理解できるでしょう」。

 ローズはララの表情を窺ったが、ララはうつむいたまま手に持ったグラスをもてあそび、何も答えなかった。ローズは故意にしばらく黙ってララに自分の話をじっくり考える時間を与えた。数分後、彼女はまた話を続けた。
「ララ、あなたは賢い人だからわかってもらえると思うけど、あなたが辞めても後任の課長はすぐに見つかる。会社に留まってくれるなら私は仕事で楽ができて大いに助かる。どの部長にとってもあなたのように従順で頼りになる部下を持つのはすごく幸運だと思う。でも、あなたは辛い思いをしたんじゃない? ただ働きをさせられて、レスターにむざむざ利用されて! 真面目な部下をいいようにこき使って、私だったらやってられない。これがあなたじゃなくて北京オフィスにいたワン・チャン課長だったら、絶対にレスターに一発お見舞いしたはずよ。人をバカにして、自分の手柄にするなんて。そんな都合のいいことってある?」。

 ララはローズがなぜこんなに激高しているのか訝しく思った。彼女はチャンでもなければララでもない。赤の他人である。さらに、これまで何の損もしていないどころか、甘い汁を吸いつくしてきた。それなのに何が不満で怒っているのだろう。弱い者を助けるために助太刀しようなんてローズの柄じゃない。この人は自分の友人だったのだろうか、とララは思わず自問した。

 ララはローズが何を考えているのかすぐには理解できなかったが、彼女の話に圧倒されたくもなかったので故意に無邪気な風を装って尋ねた。
「今回のプロジェクトを担当したおかげでいろいろと勉強できてよかったです。この機会を与えてくれたレスターには感謝しているんですよ。彼が私を使ってくれなかったらこんなに成長できませんでした。ふつう二、三年間かけて学ぶこともこの半年間の業務に比べれば足りないくらいです」。
ローズはそれを聞いて心の中で罵った。なんてお人よし! いじめられて当然だわ!
ローズはララの階級意識を訓導するように辛抱強く話を続けた。
「これだけ大きなリフォームプロジェクトを成功させるには、責任者が総務の仕事に精通していて、しかも社内組織や手続きに関するルールを熟知している必要がある。レスターが外部から人材を雇い入れても入社して数か月は仕事に着手することさえできないでしょうね。あの時はレスター自身も時間がなくて焦っていたから、外部の人間を募集するなんて無理な話だった。プロジェクトがうまくいかなかったら、ハワードはどこでジョージCEOをお出迎えすればいい? まさか自社のオフィスを視察させず、ヒルトンホテルにずっと閉じこめておくわけ? そうなったらハワードはお先真っ暗、レスターだって円満退職できない。だから、あなたは彼らの救いの女神だったのよ! あなたが誠実な人だってことは知ってる。あの手この手で復讐するなんて考えたくもないでしょうけど、でも自分の将来も考えなきゃダメなんじゃない? 自分の青春をあのじいさんの退職のために捧げようなんて思わないでしょ、それは誠実さとは呼ばない、愚か者よ! もし私があなただったら、絶対に部長のポストを狙って転職してやる。その時になればレスターにもわかるわ。あなたをちゃんと使ってやれなかったことは彼の損失だということをね。ララ、あなたほどの実力があれば、市場でいいポストが探せないはずがない」。

 ローズは自分が大企業のエリート社員であることも忘れ、下町育ちの本性を露わにしてララのレスターに対する不満を煽ろうとしている。ララには彼女が牙をむき爪をふるい立てる猿のように見えて、口にした水を吹き出しそうになった。
「私のどこにそんな実力があるんですか」。

 ローズは露店のペテン師に加担するサクラのように渾身の力を込めて説得した。
「あなたは当事者だからわからないでしょうけど、私は傍観者だからよくわかるの。あなたはもう部長にふさわしい実力を十分に備えていて、事実上もう半年も部長の仕事をしている。しかもいい結果を出しているでしょ」。

 ローズは嫌な女だし、これも気分のいい話ではない。しかしララはローズの言うことを否定できなかった。彼女の期待に満ちた顔を見て、突然この美女をからかってみたい思いにかられた。
「なるほど。レスターは私を部長にすべきだとおっしゃるんですね。では、どの部門を担当するのが私にふさわしいでしょう」。

 いま総務部長に就いているローズにとっては答えにくい質問だろうと思ったのだが、彼女は思いがけず全く平気な様子で言った。
「それは彼が悩めばいいこと。あなたが考える必要はない。もし既存の適当なポストがなければ、あなたのために新しいポストを作るべきよ。でなきゃ上に掛け合って、社内業務を理解するために各部門をまわって研修を受けさせるか、半年間の海外assignment(派遣職務もしくは派遣任務)に出すとかの許可を取ってくることだってできる。少なくとも給料を三割増しにしてくれてもよかった。彼はそれすらしてくれなかったんでしょ」。

 ローズはキャリアアップについて自分よりもずっと見識が高い。そう思うと彼女への敵意はあらかた消え失せ、ララは笑顔を返した。
「そのお話はまさに『十年の読書に勝る』ですね。こんなに私のことを気にかけてくださるなら、どこかにいいチャンスがあったら紹介してくださいよ。よろしくお願いします」。

 ローズはララの言葉をずばりと撥ねつけた。
「誰かに世話をしてもらうより自分自身に頼るほうが確実よ」。

 話はここで終わった。ローズは出張の目的は果たせたと思ったのか、ようやく料理に専念し始め、繰り返しシェフの腕前を褒めた。
ローズがその晩のフライトで広州を離れた後、ララは彼女の話を反芻した。わざわざ広州に来てとんぼ返りで去って行ったけど、あれだけ言葉を尽くして結局言いたかったのはたった一言、「ララ、DBを辞めなさい」だった。あのしたたかなローズが私の将来にこれほど関心を持つのは何故だろう。ひたすら私を辞めさせようとしている。私のことをライバル視して、自分の今のポストが脅かされるのが心配で私を追い出そうとしているのかしら?

 だがララはこうも考えた。レスターのやり方に関してローズが言ったことは的を射ている。たとえ彼女が産休を取得してから復職したとしても、レスターは彼女の部長のポストを決して他人に渡さなかっただろう。結局、いいように利用されたのはやっぱり私だったんだ。

 ここまで考えて、ララは急に頭に血が上った。この半年間、寝る暇も惜しんで命がけで働いたのに何の見返りもない。挙句の果てに、自分は上海オフィスの至る所でサーカスのピエロのように皆から指を指され噂される存在になってしまった。口が軽い同僚たちは、「ララ、大したもんだな。日焼けして痩せた自分の姿を見てごらん。レスターは君がいないとお手上げだ」と安っぽい同情を示し無責任に彼女を持ち上げる。彼女を好ましく思っていない者は顔を見れば「ララ、昇進はいつ? レスターはきっとボーナスをたんまりくれるでしょうね」と皮肉っぽく尋ねる。

 プロジェクト完了後にレスターが自分に言ったことをララは許せなかった。腹を立ててレスターに尋ねたことを思い出した。「会社に貢献した優秀な社員たちの利益は原則に照らして守ることはないんですか。会社は彼らが昇進する余地を考慮しないのですか」。

 ララはレスターのあの冷酷で融通のきかない答えを永遠に忘れない。「中には手を打ちようがないこともある。明らかに不合理だと分かっていても、よりよい解決方法がないからこそ、時には優秀な社員が流失してしまう原因ともなる。残念だが仕方がないことだ」。

 ララは昇給を要求したときに聞いたレスターの言葉も思い出した。「金の話をするのはまずい、仕事は金のためにするのではない」。
半年前にローズが切迫流産の恐れがあるため休暇を取ると宣言し、レスターが自分にプロジェクト担当を引き継がせたときの励ましの言葉もありありと思い出した。彼はララがこの重要任務で「これまでにない価値ある経験から多くを学ぶことになろう。君自身の社内における競争力は確実に新たな段階に進むだろうと信じている」と言った。

 また自分がプロジェクト担当になったときに、レスターが特別に許可してくれたたった5%の昇給も今は思い返すだけで胸くそ悪い。
ララは自分の感情をコントロールできなくなった。過去の出来事が映画のシーンのように次々に思い出され、怒りで呼吸が乱れて爆発しそうになった。どこかコンクリートの地面にでもコップを思い切り投げつけて粉々に砕いてやりたい。
レスターはどうして私をこんな目に合わせるのか。「自分の考えが甘かった」というだけでは説明しきれない。彼女は考えすぎてこめかみがズキズキしてきた。最後には、まだ三十歳にもならない自分が六十歳になる人間の考えを理解するのは難しいのだろうと認めざるを得なかった。

 ララの前の恋人はララのことを典型的な行動主義者と評したが、この点については間違いない。彼女は納得がいけばすぐに行動に移すタイプだ。
外資系企業での長年の経験は彼女にSMART原則(ここではSMART原則の最後の一条を指す。何事にも必ず期限を設け、定期的に成果を確認すること)を教えてきた。それが彼女の行動基準になり、彼女は時間をコントロールすることに非常に長けていた。どんな仕事に対しても、少しでも遅れが生じると彼女は自分で自分を急かした。一つの問題にかかりきりになり無制限に時間を費やす事態に陥らないようにし、自分の仕事に明確な期限をもうけ、どんなに複雑な仕事であっても予定の期日には必ず何らかの結論を出し、次に進むべき方向を決定する。

 レスターの目的は何なのかララには理解できなかった。ローズが自分に好意を持っていないのは明らかだが、彼女が裏で何を狙っているかについてはどうでもよかった。ララはレスターの部下の中で仕事ができる者や重用されている者を一人一人思い浮かべ、あることに気がついた。今まで仕事でよい結果をあげてレスターに引き立てられて育ててもらった例はないのだ。レスターが主体的に誰かを抜擢するのは自分の手に負えない仕事に直面した場合に限られている。だが代替案があるなら誰も昇進させないし異動させない。
 
 ララはハワードに助けを求めようかと何度も考えたが決心がつかなかった。彼に頼らなければDBで昇進する機会は永遠に来ないだろう。ハワードは彼女にとって最後の希望だ。だが彼の裁量でララが部長に昇進したらレスターから恨まれるに違いない。しかも昇進しても結局はレスターの部下であることには変わりなく、気持ちよく働くこともできまい。さらに経営者層は常に多忙を極めているというのに、天と地ほども職階の違うハワードに直談判などしたら、むしろ彼の不興を買って却って恥をかく結果になるのではないか。ララはハワードと話をすることに怖気づき、自信も持てなかった。

 あれこれ考えてみたがやはりローズの示した道しかない。仕事を探そう。彼女は思いついたことはすぐにやるたちだ。ところが職探しを始めて一か月経っても何の見通しもつかなかった。

 ローズはしょっちゅう電話を寄越してララに探りを入れたが、ララの動向を聞き出すことはできなかった。転職先を探し始めていないのか、それとも難航しているのか、何の答えも導き出せない。ローズは焦って地団駄を踏み、ララをさっさとDBから追い出せないことがもどかしくて仕方なかった。

 ローズは癇癪を起さないように気をつけながらララに言った。
「ララ、私たちは七十年代生まれだから毛沢東語録をよく暗唱したでしょ。『一万年はあまりにも久しければ、ただ朝夕を争わん』、この意味はわかるでしょ」。
「ありましたね。抗日戦争の時に言ったものでしたっけ」。
「抗日戦争の話なんかじゃない。青春はいつの時代も苦しくて短いものなの」。
 ララは適当に答えた。
「わかっています。バラだって花開くべき時に花開くべきで、枯れて散る時期になってからようやく花を咲かせようなんて思わない方がいい。私も最近はいいお相手を見つけようと頑張っているんですよ。お金持ちで、ハンサムで、私を愛してくれる人。そうすれば私もこんなに苦労しなくてすみますから。あくせく働くのは愚かな女だけ。もういいんです、レスターの下でやってくことにします。どこへも行きません。適当にやっていればいいなら、この会社以上のところなんてありませんよ。アメリカ人の定年は六十五歳だから、レスターが退職するまでまだ何年もある。私はここで彼とやっていくと決めたんです。みんなと一緒に毎年八%ベースアップして、五年も働けば月給は九千までいかなくとも八千元にはなります。これだけで十分に人から羨ましがられます」。

 ローズは怒りの余り頭から湯気が出そうだった。この木偶の坊のララにはもうなす術がない。こうして一か月、二か月と過ぎ、すでにオーストラリアに移民する手配を済ませていたローズはこれ以上ぐずぐずしていられなくなった。彼女は会社の誰にも、どの部門にも黙ったまま逃げるように会社を去った。労働法に定められた退職の一か月前には上司に申し出るという規定にも従わなかったため、レスターはローズの動向について全く感知できていなかった。

 ローズは欠勤が三日間も続き、携帯の電源も切られたままだった。レスターはやむを得ずローズの自宅に連絡を取ったが、誰も電話に出ることはなかった。ローズはわざと離陸前に、DB上海オフィスの元同僚たちに心のこもった「Farewell(さようなら)」メールを送った。レスターは自分の価値観を疑いそうになるほどの大きなショックを受けた。

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