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GO! ララ、GO! (14)

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十四 食事に誘った理由


 ウェイは窓ガラスの向こうの廊下をララが憂鬱そうに歩いているのを見かけた。急いで部屋を出て声をかけようと追いかけたが、彼女はすでに幹部オフィスのドアの前にいた。

 部長の間延びした声がかすかに聞こえる。「ああ、ララ。君の顔を見ると心苦しいよ。会社が君に苦労をかけてすまなかった」。

 ウェイは心の中で「このくそったれ!」と罵倒した。その男らしさに欠ける声は子供のころに聞いた「イタチの年始回り」〔ニワトリを狙うイタチが猫撫で声で新年の挨拶に来る寓話〕を思い出させた。

 ララはなんとか気持ちを奮い立たせ冗談めかして言った。

「からかわないでくださいよ。私を泣かせたいんですか。ここで泣いているときに社長が来たら、あなたに泣かされたって言いつけますよ」。

 そう言いつつも目のまわりが熱くなってくるのを止める術はなかった。

ウェイはその光景を見て急いで自分の部屋に戻り、少し考えてから補佐に電話をかけ、「イザベラ、ララを呼んでくれ」と指示した。

 部屋に入って来たララはドアを背にして立っている。ウェイは座るように促した。

「ララ、雲南のみやげにプーアル茶をもらったんだ。いい味だよ。飲んでみないか」。

「ありがとうございます」。

 ウェイはイザベラの手を借りず、自らララにプーアル茶を淹れた。

 ララは一口飲むと「美味しいですね」と言ってから、何か聞きたげにウェイの顔を見た。

「ララ、自分を見てみろ。まるで殺気だった猫みたいに肩をいからせてる。僕は猫と喧嘩しようとしている犬じゃないよ。そんなに警戒しないでくれ」。

「そんな。私はただお仕事の指示を待っているだけですよ」。

「上海オフィスのリフォームプロジェクトという大仕事を見事にやり遂げたね。ハワードにとっても大助かりだ」。ウェイはララを喜ばせたくて心のこもった賛辞を送った。

 だがララは沈んだ声で「これが私の仕事ですから」とだけ答えた。

ウェイは「どこが君の仕事なんだ。君は広州オフィスの総務課長なのに」と首を横に振った。

 ララは肩をすくめた。「もともと私の上司のローズ部長の仕事でしたが、彼女が切迫流産で入院してしまって、私が穴埋めするしかなかったんです」。

「ローズの仕事ではなく、君の上司のレスター本部長の仕事だ」。ウェイはララの職責に対する考え方を訂正した。

 ララは笑った。「あれはレスターにとって確かにかなりのimpact(衝撃)でしたよね」。

「impactというなら一番影響を受けたのはハワードだ。彼にとっては最重要事項だから」。

 ララは目を伏せて言った。「ええ、わかっています」。

ウェイは心配そうに尋ねた。「ララ、ジョージ・ゲイツCEOが中国に来たときにTown Hall Meeting(全社規模の対話集会)にどうして参加しなかったんだ?」。

 ララは疲れた様子で言った。「疲労困憊でした。その前日は徹夜だったから」。

 「CEOがオフィスに入って来てからずっと彼を見ていたね。感想は?」

 ララは少し興味をそそられたように、「わが社のCEOはビル・ゲイツによく似ていると思いません?」と尋ねた。

 「他には?」 

 ララはまた急に興味をなくして憂鬱そうに言った。「私とは関係ありませんよね。CEOはあまりに遠い存在で、たとえクリントンに似ていてもだから何なのって感じ」。

 ウェイは笑った。「そうだな。でもレスターは君の近くにいる」。

 ララはデスク見つめながら答えた。「それを言うなら、一番近いのはローズです」。

 ウェイは、「ハワードは本来なら君からかなり遠い存在のはずだが、そうでもないようだね」と探るように聞いた。

 ララは黙り込んだ。

ウェイは声を抑えて言った。「ララ、just between you and me(ここだけの話)、ジョージ(CEO)は今回上海に来て、中国経済の発展にかなり良い印象を持ったようだ。中国市場の先行きを好感するようになった。どういう意味かわかる?」

 ララは少し自信なさげに言った。「DBは中国への投資を増やし、会社が規模を拡大する、ということですか」。

 ウェイは声を低くした。「順調にいけばハワードは必ず出世する」。

 ララは笑った。「そんなこと、just between you and meの必要はないじゃないですか。掃除のおばさんだって知っていますよ」。

 ウェイは、ララがとぼけているのか、この話題を避けたいのか判断できずに言葉を濁した。「それもそうだな。まあ、面白くもない冗談を聞かされたことにしておいてくれ」。

 ララは少し焦れたように「何かご用があったのではありませんか」、と聞いた。

 ウェイは誠実な様子で「ララ、一緒に食事に行きたいんだ」と誘った。

「以前もごちそうしていただきました」。

 ウェイはララが自分に敬語を使っていることを気に留めないふりをして言った。

「前回は非礼を詫びるためだったが、今度は友人どうしとして気軽に話がしたい。君と僕の二人で」。

 ララは用心深そうにウェイを見た。彼女は本部長たちからの嫌がらせにうんざりしていた。彼らと接触すれば必ず不愉快な思いをさせられる。本部長がララの「友人」であるわけがない。

 ウェイは彼女がすぐに答えないのを見ると、おどけて言った。「今日は疲れておりませんから、お食事が済みましたらホテルまで必ず送り届けることをお約束いたしますよ」。

 ララは彼の言葉に笑った。「そこまでしていただかなくても。私はただ、いつもご馳走していだたくのは申し訳ないと思って」。

「そんなことはない。いわゆるTeam Building(組織作り)、部門間交流だと思ってくれればいい」。

 ララは笑みを浮かべて謝意を述べ、さらに尋ねた。「食事のほかにも、何かご用があったのでは?」

「ああ」。

 彼は手の中でペンをもてあそびながら、しばらく黙っていた。

ララは何かを感じて尋ねた。「私、何かまずいことでもしましたか?」 

「いや。君とデイジーがちょっと言い争っただろう?」

 ウェイが管轄する大口顧客部は、EC・SC・NC(東・南・北中国)の3地域を統括する。各地域に地域部長がおり、デイジーはEC地域部長の下でエリア部長を務めている。上海出身で三十歳前後、まるで天女のような美貌を持ったDB中国で有名な美女である。彼女の陶器のような滑らかな肌にはシミ一つなく、半透明の白い肌にほんのりと血色が透けて見える。ナチュラルウェーブの髪、猫のような吸い込まれそうな瞳の持ち主で、社員たちは西洋人とのハーフではないかと噂していた。

 デイジーはただ美しいだけではなく仕事もバリバリとこなすかなりの高給取りだ。こういう女性は男性に対する理想が高く、三十歳近くなると誰に嫁げばいいかさらに分からなくなり、迷いばかりが先に立った。幸い仕事は彼女を裏切ることはなく、EC地域部長やウェイは彼女を高く買っていた。ハワードも彼女を見かければ微笑んで「ハイ」と声をかける。彼女もキャリアウーマンの例に漏れず気が強かった。

 ジョージCEOが中国に到着する前日、DB中国ではちょうど上海オフィスの片づけを終え、総務部は会社上層部の承認したプランに基づき全ての座席を指定して、全社員をそれぞれ自分の持ち場につかせた。デイジーはオフィスの図面を見るやいなや激怒して、大声でわめきながら上海オフィス総務部長補佐のマギーのところに来て席を変更するように要求した。

 マギーは「この図面は前もって各部門に見せていますし、そちらのウェイ本部長も同意しています」と説明した。

 デイジーは横柄な態度で「ウェイは私に何も言ってない。私は同意したおぼえはないわ」と言い放った。

マギーにも火が着いた。「じゃあお宅の部門はいったい誰が決定権を持っているんですか!?」

 デイジーはもともと総務部など眼中にない。彼女にとっては総務部は営業部に絶対服従すべき部門だ。彼女は見下した口調で言った。

「あんなに忙しい本部長がいちいち図面なんか見ている暇はない。あなたたちが彼に適当なことを言ってサインさせたんでしょう」。

「サインしたということは、承諾したということです」。

デイジーはさらに無理を言った。「とにかく私は動かない。ララを呼んできて」。

 傍で聞いていた者が慌てて徹夜明けのララを呼びに行った。

 息を切らしながら駆けつけてきたララに、マギーは急いで手にした図面を指し示しながら状況を伝えた。「デイジーが指定されたcubicle(区画)は嫌だ、こっちのcubicleにしてくれって言うんです!」

 もうすぐCEOがやってくるというときになって、ララは目から火が出そうになりながらマギーから図面を奪い取り、徹夜明けのかすれ声で怒鳴った。

「私の指示はどうなってた? こんなことで時間を無駄にしないで。あなたは指揮命令系統のルールがわからないの? 急用があるなら本部長から私に連絡させて! でなければジョージが上海を離れてからにして!」

 ララは図面を引き裂いて床に投げつけ、身を翻して去って行った。

 デイジーは怒りのあまり地団駄を踏みながら「そういう態度なら、こっちにも考えがある!」と叫んだ。

 マギーは低い声でつぶやいた。「こっちだってみんな怒ってるわよ」。

 デイジーの上司のEC地域部長は、その日は出張で上海にいなかったが、誰かがすぐにウェイに報告しに走った。デイジーは大騒ぎしたが、結局は指定された位置に移動したので、ウェイは安心して今回の件は聞かなかったふりをした。

 その後、ララは機会を探して自分の態度をデイジーに謝罪した。デイジーはあれほどひどく怒鳴りつけられたことは初めてで、しかも同僚の目の前で引っ込みがつかなかったこともあり、ずっとわだかまりは消えていなかった。しかし下手に出ているララを責めることもできず、口先ではララの立場に理解を示したが、内心の怒りはおさまらず、機会があればウェイにララの文句を言った。

 ララはウェイの話を聞き、彼が和解させたいと思っていることが分かった。ララは慌ててデイジーにはすでに謝罪したことを伝え、さらにウェイに尋ねた。「別のcubicleにデイジーの席を移せるか調べてみましょうか。そうすれば、彼女に少しでも満足してもらえるかも」。

 「デイジーのところに行って本人に聞いてみればいい。女性どうしだからそのほうがメンツが立つ」。

 「わかりました。自分で聞きにいきます。原則さえ守れれば、移動できるものは移動しましょう」。 

ウェイはうなずいた。「じゃあそういうことで。仕事を終えたら電話するよ。だいたい7時頃かな。ホールの出入口で待ち合わせだ」。

 ララはドアのあたりでふと思い出したように言った。「私を食事に誘った理由はこれじゃありませんよね。この前のデイジーの件で私の態度が問題だったのなら、私がデイジーにご馳走すべきですから」。

 ウェイは前回の教訓を活かし、すぐに立場をはっきりさせた。

「疑うな。そんなつもりじゃないよ」。

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