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GO! ララ、GO! (12)

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十二 かみ合わない会話 

ウェイは最後のmailを送り、ノートPCを閉じて時計を見るともう夜の8時半だった。首を左右に曲げてこわばった首筋をほぐし、廊下に出て見渡すと人気のないオフィスでララがまだ仕事に没頭していた。 

 この前の引っ越し騒ぎ以来、彼はララを気にとめて観察するようになり、ララが確かに大変な仕事をしていることを認めざるを得なかった。彼女は一人でたくさんのことを処理せねばならないのだ。

 ウェイは少しばかり申し訳なく思い、いつか機会を作って借りを返したいと思っていた。

彼は次の瞬間に心を決めてララのほうに近づいて行った。すると話しかける前にララが頭をあげて静かに彼を見た。

「夕飯は?」と尋ねると、ララはNOと言って口角を引いて少し微笑んだ。ウェイが勢いこんで「おごるよ」と言うと、ララは「ありがとうございます。でもまだ仕事があるので」と首を振った。ウェイは彼女がこんなふうに断るとは思いもよらなかった。ふだん社内で「おごるよ」と声をかければ、皆ためらうことなくついてきたからだ。彼はやや面食らったが、ごく穏やかな調子で「仕事にはきりがないけど、食事はしないと」と言った。

 ララは「ありがとうございます。でも本当に急ぎの仕事があって」と丁重に断った。ウェイは思いきってララのそばに腰かけ、「でも夕飯は、いつかは食べるんだろう?」と聞いた。

 「もちろん。夕飯抜きじゃ倒れてしまいますよ」とララは笑った。

 「その急ぎの仕事が終わるまで待つよ。実はまだ書かないといけないmailがあるんだ。別に無駄に待つわけじゃない。君がこの前のことを恨んでなければだけど」。
 もともとはちょっとした埋め合わせをしようと思っただけだった。しかし彼はララに断られたことで急に自分の内心を意識せざるをえなくなった。ララを誘ったのは、潜在的なもう一つの重要な理由――ララと夕食を共にしたいという本心からの願い――があったのだ。彼は気を遣いつつも、彼女が断り切れないような言い方を選んだ。

 ウェイにこう言われてしまうと、ララはこう返すしかなかった。「恨んでなんかいませんけど、あと三十分はお待たせしてしまいます。お腹がすいてしまわれたら申し訳ありませんので」。

 ウェイは椅子を近づけ、「就業時間も過ぎたのに敬語で話すなんて、本当は許す気なんかないんだろ?」と言った。

ララはその言葉を聞いて笑顔を作り、「あなたが許してくれさえすれば、気が楽になるわ」と答えた。

ウェイは「じゃあそういうことで。仕事をさっさとすませてくれよ」と手を振った。

 彼は立ち上がり、数歩行ったところで振り返り、「急がなくていいよ。こっちも仕事が多いから。終わったら声をかけてくれ」と言った。

 ウェイが本部長の肩書をはずして自分から友好的な態度を示したことで、ずっともやもやしていたララの心に一筋の光が差し込み、少し気が軽くなったような気がした。

 ララは目の前の仕事を急いで終わらせ、ウェイの内線に電話しようとして顔を上げると、彼はちょうど自分の部屋の大きなガラス窓からこちらを見ていた。彼はララが頭を上げたのを見て尋ねるようなジェスチャーをし、ララが手振りでOKの合図をしたのを確認してうなずいた。

 「正面玄関で待っていて。車を出してくる」と言い置いて駐車場に向かった。黒のアウディA6が目の前に停まり、ララは後部ドアを開こうとした。彼は「前にすわりなよ。上海を案内してあげるから」と誘ったが、ララは「上海は、私よく来ますから」とためらった。 それでもウェイは「いつも業務出張じゃないか。街を歩いたことなんかないだろう?」とねばった。ララは笑って彼の言うとおり助手席に座った。ウェイはネクタイをゆるめ、ララに顔を寄せ「何が食べたい?」と聞いた。ララは適当に「なんでも」と答えた。

 「なんでも、はダメだ。具体的に言ってもらわないと」
「こっちでは仕事ばかりで、どのお店がおいしいか知らないんです」と、ララは正直に白状した。
「じゃあ、候補を三つあげるから選んでよ。『海の幸』は和食が食べ放題、上海料理の『梅龍鎮』、東北料理の『東北人』」
「疲れているから東北人は賑やかすぎるかも」。
 「よし、『海の幸』にしよう」。ウェイはララの代わりに決めてしまった。だがララにも目当てがあったので「私は上海料理がいいです。お餅の炒め物〔韓国料理のトッポッキのような辛みをきかせた餅炒め〕が好きなんです」と言ってみた。しかしウェイは「上海料理にはたいしてうまいものがないよ。新楽路の『海の幸』に行こう。あそこはいい酒があるし」と反対した。ララは可笑しくなり、声には出さずウェイに言い返した。「さっき私に三つの選択肢を与えて選ばせたのに、私が選んだら文句をつけてくるなんて、それならどうして選択肢に入れたのよ?」。
 ウェイは「ついたら分かるよ、きっと気に入ると思う」と説得した。

 「海の幸」は綺麗な店で、ララは特にサーモンの刺身と日本酒が気に入った。だが残念なことに、二人は話があまり合わなかった。
 ウェイは日本酒を一杯空け、リラックスして体を伸ばして話し始めた。

 「最近はわがままな女の子が多いよね。前にある女性を食事に誘ったんだけど、食事中は機嫌がよかったのに、帰る段になって彼女の家の場所を聞いたら、あいにく僕の自宅と正反対の方向だったんだ。車で送ってからまた自宅に帰ると上海を半周しないといけない。その日はすごく疲れていて、そんなに長時間運転するのは勘弁してほしかった。それに、その店はタクシーを呼びやすい場所だったから、タクシーで帰ってくれないかと頼んだ。そうしたらひどく不機嫌になって、タクシーのドアをバンと強くしめて帰って行った。品のある女性で、いい感じだなと思っていたんだけど。そのときは全く訳が分からなかった。それっきりでその後は何もなしだよ」。
 「彼女が怒った訳が分からないって言ってるの?」。
 「そりゃそうだよ。その日は疲れていたし、そんな遠くまで運転したくなかったんだ」。
 「そんなに疲れていたなら、どうしてわざわざその日を選んで食事したの? それじゃ二人の期待値がずれちゃうに決まってる」。
 「前もって約束してたんだ。その日に疲れるかどうかなんて予想できないだろ」、とウェイは言い訳をした。

それは理由にならない、とララは思った。そして「それなら、今日は疲れているからタクシーで帰ってほしいとちゃんと言えばよかったのに」と言い返した。

「紳士的に話をして、タクシーを呼んでやって、彼女が乗るのを確認してから帰ったのに、それでもだめだって言うのか?」。ウェイは不服そうだった。
ララは「私、やっぱりその人が怒ったのも理解できる。さっき期待値って言ったでしょ。私だったら、どうして一人でタクシーに乗って帰らなければならないかを彼女にちゃんと説明すると思う」。
ウェイは納得できないように頭を振って言った。「期待値とは関係なく、誰もがプレッシャーを感じてる。もし酒を飲んでいても車で送ってほしい?」
ララはつい気を回してすぐに打ち消した。「あ、私は送ってもらわなくていい。ここならタクシーも呼びやすいし」。ウェイは「君のことを言ってるんじゃない」と言ったが、ララは不快な気持ちを抑えつつ「私がそうしたいの」と言い返した。ウェイはララが不快に思っていることに気付かず、「お、聞いたぞ。後で家に送ってくれなんて言うなよ」と適当にあしらった。ララはこれを聞いてさらに不愉快になり、「あとであなたに送らせたら、私は大馬鹿者よ」と言い返した。ウェイは「ようし、覚えていろよ」と笑った。 ララは「この人、EQは大したことないわね。こんなレベルでも本部長になれたのに、私は本当に不遇だわ」と思った。

ララは、ウェイと話が合わないうえに自分の人生の不遇を感じてしまったからには、美味しい料理を味わうことに集中して失意を癒すしかないと決意した。
 ララはあまりウェイを気にしないようにしようと心を決め、彼が何か言っても適当に相槌を打ち続けた。ウェイは面白くなくなり、「ご馳走したあげく嫌われるって、どういうことなんだ」とララに詰問したい気持ちだった。二人が食事を終えてレストランを出ると、ララはすぐにタクシーをつかまえて乗り込んだ。そして礼儀正しく「ごちそうさまでした。今日はとても楽しかったです。気を付けてお帰りなってね。ではまた明日お会いしましょう」とあいさつした。ウェイには返すべき言葉もない。ララは礼儀正しく、ウェイに車で送らせることもせず、文句をつけようがなかった。ウェイは車を運転して帰る途中に、考えてみると不思議なことだと思った。ララは賢いし仕事にもあれほど打ち込んでいる。どうして中途半端な課長の地位にとどまっているのだろう、それも将来性のない総務の課長に。

 思い返してみれば、彼女はやや言葉がきついところはあるが、なかなか面白い。上海女性とは全く違うし、北京女性とも違う。またいつか彼女を誘ってどんなタイプの女なのか確かめてやろう。

 

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