« GO! ララ、GO! (9) | トップページ | GO! ララ、GO! (11) »

GO! ララ、GO! (10)

http://www.kanunu8.com/files/dushi/200805/553/3703.html


十 ボスは誰かを忘れるな

 

 DB中国社長のハワードはハードワーカーで夜九時前に退社することはめったにない。彼はオフィスを出る前に決まってどの部門のどの社員が残っているのかを一通り見まわして確認するのだが、ララが毎日残業しているのに気が付いた。ララが賃貸借契約を迅速に更新したことでハワードはララに好印象を持ったし、彼女がプロジェクト計画のプレゼンをした際にもその仕事への熱意と専門知識が彼の興味を引いた。 

 ある日の夜、彼が帰ろうとしたときにララがまた残業しているのが遠くのほうに見えた。大股で近寄っていくと、ララはデスクの上にオフィスの平面図と機械電気図を広げ、縮尺定規を手にわき目もふらず手を動かしている最中だった。ハワードがやってきたことにも気づかない。


 そっと声をかけるとララはボスが目の前に立っていることに気づき、急いで立ちあがった。ハワードが微笑んで自分のオフィスで少し話をしようと言うと、ララは驚きつつも喜んで大柄なハワードに従って社長室に入った。 

 ハワードから何か困ったことがあるかと聞かれたララは、社長に声をかけられた機会を利用して費用に悩んでいることを打ち明け、さらに部長の部屋を減らしたいと提案した。ハワードは、レスターにそのアイデアを話したのかと聞いた。ララは、話したけれどレスターの意見ではこのプランは中堅管理職と部課長級管理職に少なからぬ影響を与えるからもっと適切な別の方法を探すよう希望していると答えた。ハワードは微笑んだ。「他にはいい方法が見つからないんだろう?」

ララは正直に言った。「実はそうなんです。いま取引のあるサプライヤー数社はどこも一流の設計会社で、専門性もあるし経験も豊富です。彼らと繰り返し討論しましたが、よりふさわしい方法はないようなんです」。


 ハワードはレスターが管理職の機嫌を損ねるのを恐れて決断を下せないでいるのだろうとふんで、瞬時に考えを巡らせてララに告げた。「明日、私がまずレスターとピーターに根回ししておこう。その後すぐに幹部定例会議で各部門のトップに君の提案を検討させる」。

 ララが社長室のドアを出るとき、ハワードは力強く彼女の手を握って言った。「ララ、私にできることがあれば知らせなさい」。ララは心が暖かくなるのを感じた。


 ハワード社長とピーター財務担当VPの支持を得て、ララの提案は会社幹部に受け入れられた。レスターはハワードがララに好感を持っているのを見て、それも悪くないと思った。もし再び難題にぶつかったら、いっそのことララにハワードと直接話をさせよう。そうすれば我が部門がリソースの配分を受けやすくもなるだろうし、自分もハワードに難題をふっかけられず、良い部下を育てたという評判を得ることができるかもしれない。


 レスターの総務部長募集は難航していたが、ララが担当しているプロジェクトはすこぶる順調に進行していた。ララはレスターとコミュニケーションをとる機会は多くなかったが、よく上司の命令に従い、仕事への熱意と頑張りは誰から見ても明らかだった。レスターが任せた仕事はすぐに実行し良い結果を出す。ララの仕事ぶりは非の打ちどころがなかった。


 レスターは、ハワードがララのデスクに来て親しげに話しているのを何度か見かけた、という噂を耳にした。より重要なポストに就いている部長に対してはそんな態度を見たことがないにもかかわらずだ。レスター自身がハワードとリフォームプロジェクトについて話し合った時にハワードが何度かララに言及したことも噂の信憑性を裏付けていた。


  レスターは、ローズが復職したときに部長が二人になるのは困るとも考えていた。この厄介事はやはり彼自身で片付けておかなければならない。彼は決意を固めてハワードに言った。「求人は難航していますが、ララがプロジェクトをうまく進めてくれているので彼女に最後まで任せではどうかと思います」。

ハワードは大賛成で、にこやかな表情でそれがいいと繰り返した。レスターから言いだすのを待っていたかのようだった。 レスターは内心で「この提案はボスの希望にぴったり合致した。ララを使いたかったようだ。成功すれば万々歳、失敗しても私のせいじゃない」とつぶやいた。


 ララはハワードの支持を得たが、やはり苦労は絶えなかった。たとえば、自分の部屋がなくなった部長の中にはララを好ましく思わない者もいたし、中には機会をみてはデスクを叩きながら、こんなことをして何様のつもりだとララを脅す粗野な振る舞いをする者までいた。ララは震えあがりながらもそんなつもりはないと言うほかなかった。


 DB中国には本部長クラス以上の役職者が二十名あまりいるが、みな扱いにくい人ばかりだ。レスターはララに各部門との関係を悪化させないよう何度も念を押した。ララは細心の注意を払う必要があった。


 改装は二期に分けて施工される計画である。オフィス全体を二つに分け、第一期工事開始前に全ての人員が一方に集まって窮屈な状態で勤務を続け、もう一方で施工する。 ララは事前に各部門と話し合って移動日とルールを決めたが、移動日当日になっても二つの部門が居座っていた。


 その日レスターはあいにく外出していた。ララは焦燥感にかられて電話をかけ指示を仰いだが、レスターは落ち着きはらって「ララ、これは君のコミュニケーション力とコーディネート力を鍛えるいい機会だよ。各部門とうまく協調する方法を考えなさい。移動は決められた期日通りに完了し、部門間の関係も損なわないように」と答えた。


 これでは何も言わなかったのに等しい。ララは自力で何とかするしかなくなった。ハワードがやって来て現場を一回り見渡し、居座り組の部門長二人に電話をした。ほどなくして、二人の本部長が息を切らして現場に転がり込んできた。その一人がララを捕まえて言った。

 「ララ、困っているなら直接言えばいいじゃないか。ハワードに電話なんかさせて」。

 ララはあまりの忙しさに頭が回らず、訳の分からないまま言った。

「私はハワードには何も言ってませんよ」。 

 その本部長はララが慌てている様子を見て、それが嘘ではないと信じたのだろう。数人の部長に声をかけ荷造りをさせ始めた。


 もう一人は大口顧客部本部長のワン・ウェイだ。彼は若手の出世頭にありがちな傲岸不遜なところがあった。彼はハワードからの電話をうけて現場に駆けつけると、数人の部長と言葉を交わしてからララに向き直った。「今日は重要なイベントのために人手が足りない。総務部のスタッフでパッキングしてくれ」。

 ララは「人手不足でしたら、引っ越し会社に人を寄越してもらってパッキングしましょうか。箱の上に部門と名前を書いた紙を貼ってもらえれば大丈夫です」と親身に提案した。しかしウェイは気にする風もなく言い放った。「総務部のスタッフを寄越せばいい。パッキングの指示も任せるよ。そっちで部門と名前を書いて貼り付けておいてくれ」。

  ララは内心「ここに何百人いると思ってるのよ。総務部はたった四人でルーティーンもこなさなきゃならない。梱包して貼り紙までしてくれる人なんか、どこを探しても見つかりっこない。これじゃまるで嫌がらせじゃない」と思ったが、口には出せなかった。ただ穏やかに「総務部は人手がなくて、間に合わないかもしれません。そちらの部門で何人か残ってもらって、急いでパッキングを済ませてもらえませんか」と相談を持ち掛けた。

 ウェイは腕組みをし、居丈高な様子で首を振って、感情のこもらない口調で言った。「我々には重要なイベントがあって人手がない。引っ越しをしていたら商売をして利益をあげられない。じゃあ僕がパッキングしようか。いずれにせよ部下は仕事に行かせるから」。

 ウェイの部下や他部門のスタッフが野次馬になって二人のやり取りを見物していた。仕事の手を止めている者もいた。

  ウェイは北京出身の三十三歳、高身長ですっきりした美男子だ。ララの身長は女性の中でもごく普通で、社内での地位だけでなく身長差でもウェイはララを尻込みさせるのに十分だった。

  ララは頬が紅潮し喉がカラカラになるのを感じた。「今日この部門を制圧できなければ誰も私の言うことを聞かなくなる。そうなったらこのプロジェクトはやっていけない」。

 ララは一歩も引けないと覚悟し、ウェイにきっぱりと言った。

 「リフォームの工期はタイトで半日たりとも無駄にできません。申し訳ありませんが、デイビット(ウェイの英語名)、今日の引っ越しは会議で決定済みであり、各部門にも協力を要請しています。あなたの部門も計画に同意されましたよね。午後六時までにオフィスの半分を完全に片付けておかなければなりません。その時間になっても荷物が残っていたら全て不要なものとみなして処分します。それに電話とネットも遮断します。皆さんの明日の仕事に影響しないよう、必要な物をごみとして処分されないように、きちんとパッキングするよう各部に伝えて下さい」。

 そう言い終わると、ララは踵を返して振り向きもせず歩き出した。ウェイはしばらく呆気にとられて立ち尽くしていた。どうなることかと見守っていたスタッフの前でなかなか引っ込みが付かない様子だった。


 上海オフィス総務部アシスタントのマギーはずっとララの後ろに控えており、チャンスさえあればララを応援しよう思っていたが、部長や本部長たちを前にして口出しする機会を失った。総務部は日ごろからウェイから叱責されていたため、ララが今日ウェイと堂々と渡り合って言葉を失わせたのを見て、マギーは心中で快哉を叫んだ。鼻高々な様子で尻を振りながらララの後ろを追いかけ、角を曲がると興奮気味に話しかけた。

 「ララ、すごいわ! あいつら、いつも私たち総務部をいじめて、まるで私たちが営業に養われてるみたいなことを言う。あいつらが我々を食わせてるって? 違うわ、給料をくれるのは会社よ!」。 

 ララはマギーを叱りつけた。「人の不幸を喜ばないで! 早く引っ越し業者に気の利く人間を何人か寄越させて、ウェイの部門のパッキングをさせるように手配しなさい。あなたまさかウェイ一人に荷造りさせるつもり?」

 マギーは口を尖らせ不機嫌そうに「だって自分でやるって言ったじゃない」とブツブツ言いながらも業者の手配に取りかかった。ララは彼女のほうをふり向いて念を押した。

 「いい気にならないで。誰がボスか忘れないようにしなさい」。

 「わかってる。ボスは彼よ」。

 

 しばらくしてマギーがララに報告しに来た。「ウェイたちはすごく協力的で、パッキングは順調よ」。 ララはようやく安心した。

 

 レスターが戻ると、ララは一部始終を報告した。最後に「ハワードが助けてくれて本部長二人に電話してくれましたが、私がハワードに告げ口したと思い込まれてかえって困っちゃいました」と付け足し、いたずらっぽくフフフと笑った。

 レスターもつられて笑い、内心では「ララという子は、仕事しか能がないと思っていたがIQ〔頭脳の知能指数〕もEQ〔心の知能指数〕も兼ね備えている」と考えていた。

 レスターはゆっくり歩いてウェイのオフィスを訪ねて声をかけた。「ウェイ、ララから聞いたよ。よく協力してくれてパッキングが順調に終わったそうだね」。

 ウェイは自らの横柄な態度を思い出しつつ、照れ隠しをするように言った。「ララは僕のオフィスを正面入り口の真ん前に配置しましたよ。入ってきた人はまず僕を見る。まるで男のreception(受付)のようです」。

 レスターはウェイをからかうように、「君はイケメンだから受付にぴったりだと思ったんだろう。我が社のreceptionは容姿を重視するからね。私が受付に配属してほしいと頼んでもララは承知しないだろうよ」と言った。

|

« GO! ララ、GO! (9) | トップページ | GO! ララ、GO! (11) »

翻訳」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« GO! ララ、GO! (9) | トップページ | GO! ララ、GO! (11) »