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GO! ララ、GO! (5)

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五  ワン・チャンは怒りに震えた 

  北京オフィスのリフォームが迫っているというのにチャンが入院したという噂を聞いてララはすぐに見舞いの電話をかけた。チャンは手術をすることになったと言う。

  ララは手術と聞いていささかまずいのではないかと感じた。たいして大きな手術ではないが十日ほど休みを取る必要があるそうだし、緊急を要するものでもないようだ。

  そもそもリフォーム期間中に総務課長が不在では話にならない。もし自分ならリフォームが終わってから手術をするだろう。少なくともチャンのように誰に急務の処理を任せるかといった引継ぎもせずに職場を留守にするなどありえない。さらにもともとチャンと折り合いの悪いローズがレスターにこの件をご注進に及ばないとも限らない。

  案の定、数日もたたないうちにレスターからNC(ノースチャイナ)全域の社員にメールが送信され、NCの総務関連業務はしばらく他のスタッフが代行すると書いてあった。レスターがこの連絡をしたのは、何か問題が起きたときに総務課の誰に言えばいいのかわからないと他部門からクレームがついたためだとのことだった。

  だが数日もしないうちに、ララはチャンが一斉送信したメールを受け取ることになった。そこには、自分はすでに退院したので北京の総務関連業務は以前と変わらず自分が所管するとあった。

ララはチャンがこういうメールを送ったことに、どうにも首肯することができなかった。第一に、レスターが代行を指名するメールを送ってまもなくチャンがそれを撤回したことで、皆はきっと何かあるに違いないと勘ぐるだろう。レスターのメンツは丸つぶれだ。第二に、すぐに訂正する必要があるなら、レスターあるいはローズがメールを送るべきであり、チャンが自ら通達するのは筋違いだ。

  レスターが先に送ったメールは、おそらくチャンが大切な時期に病欠しただけでなく、事前に仕事の引き継ぎもしていなかったことに対する不満の表れだろう。ララはチャンにローズは手術に快く同意したのか尋ねてみた。

  チャンは不満げな口ぶりで言った。

「ローズには入院する前日にメールで病欠の連絡をした。そしたら彼女から電話がかかってきて『リフォームが終わるまで待ってから手術をするべきよ』って言うから無視したわ。彼女だって、まさか私が死にそうなときに『リフォームが終わるまで死ぬのは待ちなさい』とは言わないでしょ。あの病院のベッドはなかなか空かないのよ。ベッドが空き次第、すぐに入院しなきゃいけない。まさか病院が私のためにベッドをhold(確保)しておいてくれるとでもいうの!? 」

  ララはチャンの話を聞き、内心で(そういうことじゃない)と思ったが、それ以上言うのはやめた。

  北京事務所のリフォームが終わってすぐ、上海事務所で大規模なプロジェクトが持ち上がり、ローズはてんてこ舞いの忙しさだった。加えて、ララが積極的に「上司との協調性を維持」したので、彼女は次第にララを放っておくようになり、SC(サウスチャイナ)の業務はララの自己裁量に任された。ララは自分の思い通りに仕事を進められ、顔色もよくなったようだ。チャンは相変わらず二週間おきにララに電話をよこし、ローズに対する愚痴をこぼした。

  その日、チャンは怒りが収まらない様子であった。

「長江の水害義援金にNCの社員たちが募金したいって言うから、ローズにこの件をどう進めるべきか相談した。そうしたら彼女は『私は忙しいの! イライラさせないで!』だって。あんなに血も涙もない人だなんて!」

  ララは何と返してよいかわからなかった。被災地への募金はもちろん間違っているとはいえないが、目が回るほど忙しいローズにとって優先事項(priority)でないことはあまりに明らかである。

  チャンは考えが足りないし身勝手だ。第一に、最も忙しい時期に緊急性の低い病気で休暇を取り、しかもその期間の仕事の引き継ぎもしていなかった。第二に、上司が多忙を極めている時期に、さして重要でない募金の話を持ち出して彼女を煩わせた。

  何度か遠まわしに意見をしても全く効果がないので、ララもチャンに注意する気が失せてしまった。彼女はもうチャンの愚痴を聞きたくなかったので、ヘレンに電話を取り次がないように頼んだ。ヘレンは大きな目をくるくる回して「はいはい、わかった」と答えた。

  二か月後、ララが懇意にしている本社人事部のスタッフが広州に出張してきたとき、チャンが解雇されたことを教えてくれた。

  突然のことでララは驚いた。チャンは遅かれ早かれ会社を去ることになるだろうとは思っていたが、それまで何の噂も聞いていなかったからだ。

  ララは慌てて尋ねた。「いつのこと、どうして? 」

  「つい昨日のこと。チャンは人間関係に問題があったみたいで、NCのいろんな社員たちから彼女のやり方に不満の声があがったの」。

  その件については、ララも思い当たる節があったので「何か具体的な問題でもあったの? 」と続けて尋ねてみた。

  相手は声を低く抑えて言った。「チャンが北京にlocate(駐在)している本部長のガソリン代と携帯電話料金の使用状況を聞きに行ったとき、言い方が悪くて相手を怒らせたの。本部長が怒ってレスターのところに行って散々文句を言ったから、レスターもカンカン」。

ガソリン代と携帯電話料金は、会社の規定では本部長クラスは無制限に使ってよいことになっている。しかも、その某本部長は社内で人気のある実力派で、レスターも一目を置いていた。そんな人物にチャンは身の程知らずにも突っ込んでいった。解雇されたのも“deserve it”(自業自得)と言うしかない。

チャンはあまり仕事ができるわけじゃないし、ちょっと自分勝手だけど、大きな事務所で経験を積んできた総務課長なのに、どうしてこんなに馬鹿なことをいくつもしでかしたのか、ララには理解できなかった。

  「その本部長の言い分だけでチャンはクビにされちゃうの? 」

  その同僚は秘密めかして言った。

「重要ポイントは、誰も前に出てチャンを助けようとしなかったこと。こういうときに直属の上司が彼女を庇ってくれていたら大丈夫だったはず。その後の振る舞いに注意すれば済んだと思う。でも、チャンとローズの関係はあなたも知ってるでしょ。その上、北京オフィスの幹部たちも誰一人チャンの味方になろうなんて思わない」。

  「昨日は誰が北京に行ってチャンに解雇を伝えたの?」   

「ローズ自身よ」。 

「でも、どんな理由で? 本部長の経費を調査したからクビだなんて言えないでしょ?北京オフィスの事務経費を管理するのは、北京オフィス総務課長の職責だもの」。   

「もちろんそんなこと言わない。彼女の契約期間が満了になって、会社は業務戦略上、今後は北京オフィスには総務課長のポストは設けない、だから会社と彼女の契約更新は無しってことにした」と同僚は笑った。 

「でも、北京オフィスみたいな大きな事務所でそのポストを廃止するなんてあり得る? 」とララは首をひねった。   

「二ヶ月も過ぎれば、また誰か探してこのポストに座らせる。仮にチャンから異議が出ても、また戦略が変わったって言えばいいし。実際、契約期間が終わって会社が契約更新しないことに何の理由もいらない。一か月前に本人に伝えれば労働基準法にも違反しない。業務戦略は口実だけど、本人の引き際を考えて階段を用意してやったに過ぎないわ」。

  ララは返す言葉がなく不安になり、ローズに電話をしてチャンのことを尋ねた。

  ローズはなだめるように言った。

「私もちょうどあなたに伝えようと思ってた。チャンの仕事ぶりには問題があったし、能力も不足していた。それに人間関係も悪かったから遅かれ早かれこうなってたわ。あなたは心配しなくて大丈夫。この件はあなたとは無関係。あなたには何の問題もない」。   

「チャンは納得したんですか? 」   

「契約期間満了、更新なし。これは労働基準法に照らせば会社は余計なお金を一銭も払う義務はない。でも私はレスターに『チャンは能力不足とはいえ仕事への責任感は素晴らしかった。彼女の給料三か月分の退職金をあげてください』って口添えして、レスターも同意してくれた。それなのにチャンはもう一度レスターと話をさせてくれと。多忙なボスに彼女と話す時間なんてあると思う? ボスを煩わせたりしたら結果はさらに悪くなる」。

  ララは注意深くうなずいた。

  その後、チャンがララに電話をかけてきた。彼女が調査をした本部長の費用は、実はローズに調べるように言われたもので、調査しないわけにはいかなかったのだと言った。

  チャンはくどくどと長いこと愚痴をこぼしたが、ララは何を言っても無駄だとわかっていた。それにララに訴えたところで何の役にも立たない。

  最後に、チャンは歯ぎしりしながら言った。「レスターが電話に出ないの。今に見てなさいよ! 」

  ララは、チャンの言葉の端々に強い恨みを感じ、動悸が早くなるのを感じたが平静を装うので精一杯で何も言うことができなかった。

  チャンが会社を去った後、ララは広州オフィスのリフォーム責任者に指名された。彼女はチャンの顛末を教訓として、とりわけ用心深く仕事を進めた。ララはこれほど大きなリフォーム・プロジェクトを経験したことがなかったが、ローズがいつまでも系統だった指導をしてくれる気がないので、難しい問題についてはビクビクしながらローズに教えを乞うた。

  ローズはいかにも面倒そうに「そんな細かいこと、今こうやって時間を割いて電話で説明してもわからないわ。また今度にして! 」とララを適当にあしらった。

  それから間もなく、ローズは予定どおり会社から短期派遣の出張を命じられ、鼻歌交じりにシンガポールに行ってしまい、それから半年間も帰ってこなかった。

  ララはどうしようもなくなった。ローズの「また今度」はなくなり、プロジェクトは目の前に迫っている。彼女は全ての仕事を一人で抱えこみ、昼も夜もなく働き続けた。さらにしょっちゅう業者を呼びつけて彼らから仕事を学んだ。

  半年間の苦労を経てプロジェクトは素晴らしい成功をおさめた。レスターは広州に視察に訪れたとき、心中で感嘆した。以前は気にも留めていなかったこの広州オフィスの課長は、もしかしたらダイヤの原石かもしれない。

  さらにローズもシンガポールでの短期派遣を終えて上海に帰任し、レスターと昇進について話し合った。   

ローズはこの二年間、多くの業務で会社に貢献をしてきた。そこでレスターはシンガポールへの半年派遣を計画してやり彼女を支援したのである。

  ローズは、自分は総務部長補佐の肩書でありながら、総務部長なみの仕事をしていると自負していた。さらにこの半年間は海外研修を通して多くの業務経験も積んできた。自分では完全に総務部長の肩書にふさわしいと考えていた。

  自分の立場を有利にしておくために、またレスターに自分の重要性をはっきりわからせるために、ローズはいつも重要な仕事は自分の手に握って決して放さず、部下にはできる限り触らせない。もちろん、部下に仕事のノウハウを教えるなんてもってのほか。シンガポールに行く前に彼女が故意にララを指導しなかったのは、ララに恥をかかせるつもりだったからだ。戦場が手に負えない状態になり、レスターも事態を収拾する人間を見つけられなくなれば、ローズから離れられないことがはっきり分かるだろう。

  それなのに、ララの大バカ者が一体どんな幸運に恵まれたのか知らないけど、うまいことやって自分に追いつこうとしている。それでもローズは、やっぱりララは単細胞で生まれつき人の下で働く運命しかない、どっちにしても誰かに利用されるだけで人の上に立てる器ではない、と評価するのだった。

  レスターは躊躇った。彼はずっとローズに対するチャンの申し立てを押さえ続け、最後にはローズがチャンを辞めさせることにも同意した。心の中ではローズのleadership(ここでは上司としての適性を指す)に問題があると見抜いていたにもかかわらずだ。その上、ローズにララたち部下を指導する気がないことも明白だ。それ故、彼はローズには総務部長になる資格はないと考えていた。

  しかし、前年度の自己評価報告でローズが総務部長への昇進希望を出したとき、彼は現在の彼女と総務部長との落差、昇進するには何が足りないのか等を面と向かって話すことはしなかった。ただずる賢く耳触りのいい口実を探し、英語力が不十分だからとだけ伝えていた。

  その結果、ローズはシンガポールで半年間、死に物狂いで英語力を強化し、これについては明らかに進歩した。彼女が再びレスターのもとを訪れたとき、レスターも感心するほどだった。 

 彼は折衷案として彼女に今年度の社長賞を獲得させることで、互いに折り合いをつけたいと思った。

 ローズは、表向けは鼻にかかった甘い声で礼を述べたが、心中では歯ぎしりしたいほど悔しい思いであった。

 

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