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GO! ララ、GO! (8)

八 本社からの指摘と切迫流産 

 

予算案はアメリカ本社に送付された後に突き返された。不動産部のコメントにはこの予算案は全社的に規定している世界共通のフォーマットを用いない概略のみの説明しかない、データ分析不足している、さらにプロジェクトの各段階にどのような関連性があるのかを通常の業務フローに則って考慮していないあった  

 

 アメリカ不動産部部長のロスは以下のように指摘した。  

「DB中国はオフィスのリフォームを申請しているが、その一方で賃貸借契約更新していない。契約更新により賃料が高くなりすぎるようならオフィスの移転を検討するべきである。また、契約更新が済んでいない時点で安易に現オフィスのリフォームの計画を立てるべきではない。なぜなら、考え得るリスクとして、オーナーが契約更新に同意しないか、あるいはDBがすでにリフォーム予算を組んでいることを知れば賃料の引き上げにかかるかもしれない。そうなればDBは受け身にならざるを得ないだろう」。  

 

 ロスの指摘は続く  

「予算案にはDB中国本部のオフィス面積が四千五百平米必要である根拠となるデータが示されていない申請書にも、今後三年間で当該オフィスに勤務する従業員は何名か、それだけの人数が必要な理由等について記載がない。我々はまずどの程度の広さが必要かを明確にしなければ適切な面積の賃貸物件を選定できない」。  
 

 ロスはこのmailをレスター宛てると同時にハワードとピーターにもCCで送信したのでレスター非常に気まずい思いをした彼はこれまでとこれからのことに思いを巡らした。ローズの部下の上海総務部部長は無能なイエスマンで使い物にならないとりあえずララを早急に広州から上海に呼び寄せてプロジェクトに参加させるしかなさそうだ。 

 

 レスターはローズに、これ以上忙しいと手が回らなくなってしまうだろう、ララをこちらに呼んで手伝ってもらってはどうか、と提案した。ローズは特に表情を変えることもなく何度も礼を言った  

 レスターは自らララに電話をかけ、会社が彼女にスキルアップの機会を与えることになり、ローズのアシスタントとして本部への長期出張が決まったこのチャンスに大規模プロジェクト管理を学んでほしい説明した  

 ララはこれまでレスターと話す機会などめったになかったのに、今回は大ボス直々の電話を受けてすっかり舞い上がり、レスター話を全くもっともだと拝聴した。彼女は帰宅後に慌てて荷造りをし、週末も休まずに上海に飛んだ  

 

 ララが上海に到着した日、ローズはレスターに妊娠したことと、深刻な切迫流産のため三か月安静にしていなければならないことを告げたすでに三十二歳結婚してからなかなか子宝に恵まれず諦めかけていたところに思いがけず妊娠できた、とはらはらと涙を流しながら語るのであった  

 レスターは病院が発行した休暇願を眺めながら、いきなり頭を抱え込んでしまった。困った、DBは専門業種の大企業として一貫して生活と仕事のバランスを重視している。オフィスの壁面にはLife Work Balance”(生活と仕事の調和)という標語が掲げられているほどだ。彼はローズに流産のリスクを負わせてまで働かせることはできない。  

 

 一方で、DBはhead count(社員については典型的な欧米の大企業のやり方にならい、非常に厳格に管理している。ローズ在職中である以上、部長ポストきはなないため後任の部長を募集することはできない。 しかもレスター自身はこのプロジェクトに詳しくないので、専門知識があって仕事熱心な総務部長代理を早急に手当てしてこの仕事を担当させなければならない。 

 もちろんハワードこの問題について相談し、人を回してもらうこともできる。しかし、レスターはハワードにはあまり快く思われていないようだ。その証拠に、昨年度はハワードから低い評価を受けたせいで年末賞与さほどの額ではなかった。  

 ハワードは四十歳を少し過ぎたところで会社では若手の出世頭だ。中国で大きな仕事をしたいという野心に満ちている。一方レスターは、大過なく退職することが最優先で、彼の行動は全て安全を基本原則としている落ち着きと余裕は十分だが変化を恐れ、何か新しいことをやってみようなどとは考えもしない。  

 ハワードは、自ら問題を解決しようとしないレスターの態度を内心では苦々しく思っていた定年退職が間近であることを考慮、なるべく口出ししないようにはしていたが、レスターの稟議を拒否すること少なくなかった度重なる拒絶にあったレスターはハワードリソースの追加要求をすることを避けるようになった  

 

 レスターはしばらく思案した。総務部で仕事を任せられる現時点でララただ一人だが、彼女が全面的に信頼できるとは思えない。今回のような大規模プロジェクトを管理するには、専門知識仕事に対する熱意だけでなく、責任者として会社上層部とやり取りする必要もあるだが、ララはいかんせん若すぎる。上層部とコミュニケーションを図るのは難しいだろう。ララはローズに比べて社会経験が足りなすぎるのだ彼女がハワードピーターの前でしっかりと話ができるかどうか甚だ疑問  

  

 彼はローズが運よく近いうちに体調を回復することを祈る一方で、それは期待できないことを知っていた。それどころか、ローズが妊娠したこと自体を疑っていた。だがそれを証明することはできないし、もし事実かどうかを調べたりすれば険悪な雰囲気になり信頼を取り戻すことは不可能だ。大過なく退職するという彼のプランは台無しになる  

 ローズは妊娠後、労働基本法が定める女性従業員は妊娠期間と授乳期間は法的保護を受けるという条項の適用を受け、大きな過ちを犯さない限り二十二か月間以内は解雇されないまた、レスターは妊娠理由にローズを降格させることもできない人事部のトップである彼が率先して妊婦を降格処分にしたら、それ以降、社員妊娠するたびに上司は妊婦降格を求めることになる。そんなことになればレスター人事の最高責任者でいられなくなる  

 レスターはハワード部長職の採用募集を特別に許可してほしいと申し出ようかと思ったがローズが帰任した後は増員した部長をどうするつもりだと聞かれるに決まっている  
 

 しばらく考えて、レスターは決意を固めた。こうなったらハワードに何と言われようが徹底的に話し合い、組織を統率する能力を試すしかない。なんとかして早急に総務部長のポストを埋めまずはこのプロジェクトを完了させて後のことはその時になってから考えよう。さもなければ目の前に迫った難関を突破することができなくなってしまう。  

  

 ハワードはちょうどシンガポールで会議に出席しているので、レスターは彼が上海に戻ってきたら話し合うことに決めた。それと同時に、ヘッドハンティング会社に頼んで早急に適切な総務部長候補者を探させさっそく面接開始した  

   

 面接応募者に必ず尋ねた質問は、もしあなたがこの程度のリフォームの予算を組むことになったら、一平米あたりの費用はどの程度になりますかというものだ。 

 その結果、大企業に勤務した経歴のある数人の応募者はおよそ千五百元だと口をそろえた  
 
  

 彼はそれを聞いて動悸が早まった  

  

 レスターララを呼び、親しげに尋ねた。  

「広州オフィスのリフォームは一平米あたり元だっただろう。なのに今回の上海のケースは千五百かかると言うのはなぜかな?」。

「広州オフィスでは電話交換機システムを新しくしませんでしたし、オフィス家具も古いものを使っています。それに、広州オフィスは役付きの社員が上海よりずっと少ないので、上海オフィスほど多くの独立した部長室は必要ありません。機械や電力設備のコストも削減できます」。  

「上海も電話交換機システムを交換しなくてもいいんじゃないかな?」。   

「メンテナンス会社のエンジニアと一緒に機械室に行ってチェックしてみましたが、すでにシステムに目一杯負荷がかかってて、これ以上容量を増やせないんです。上海オフィスの賃貸契約更新では面積は今のまま? それとも拡張するんでしたっけ? 来年は社員が増える見通しですか この辺を確認してからでないと容量を増やす必要があるかどうか分かりません」。  

  

 ララのこの質問は痛いところをついていた。これはまさに彼がアメリカ不動産部から受けた指摘そのものだった。今後二三年間で人員はどのくらい増えるのか、面積はどのくらい拡張する必要があるのか。この二つの情報が予算案に示されていない。まだ契約更新も決まっていないのにリフォーム計画を進めてしまったのだ  

「もし人員%増えて面積も拡張したら、電話交換機システムの容量は足りなくなるのか? 何とか調整できないのか?」。  

「その%の増員は種類の従業員でしょうか? ほとんど部長クラスより下のセールスマンなどでしたら、会社は決まったデスクを用意する必要はありません。でも、もし別のfunction(専門部署)、たとえば財務部やマーケティング部、開発部などですと必ず内線番号を割り当てなければいけません。――具体的分析してみないことには……」。  

 レスターはこれまで総務部を軽く見ていたが、実は非常に専門的な業務であることをいよい思い知った。これは大変なことになった。業務のどの段階でポカを出すか分からな  

 

 それ以前には、彼は管理会社に任せて管理費用を払って安心を買えばよいと考えていた。しかし、プロジェクトに深く関わっていくうちに、プロジェクトの責任者はDB内部の業務フローや組織構造についても熟知している必要があり、これは管理会社ができるものではないし、たとえ専門的な知識を持った新しい部長を探してきても恐らくすぐには仕事に取り掛かれないだろうということをますます感じた。 

  

 

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