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GO! ララ、GO! (1)

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一 忠誠心は満足から

 大学を出てから年目、民間企業と香港台湾企業の洗礼を受けた後、ララはついに夢を叶え、通信業界で有名な外資系トップ五百に入る米国資本のDB社サウス・チャイナ(SC)支社にセールス・アシスタントの職を得た。月給は四千元〔日本円で約六万円〕だった。

 この部署はいわば営業部隊を支える裏方で、エリアセールスのデータ管理、地域統括部長の下での経費管理、会議手配など営業部隊の日常業務のコーディネートを担当する。業務内容は煩瑣で、自己裁量も適度に行わなければならない。上長に報告・相談すべき事柄と地域統括部長の手を煩わせてはならない事柄をわきまえ、問題が起きればどの部門とコミュニケーションをとるべきかを把握している必要がある。ここでは、要領よくテキパキと事務をこなし、責任感が強く、論理的に思考し、コミュニケーション能力が高いことが求められる――要するに、要求される条件は決して低くなく、待遇はさほど高くない。良い点を挙げれば安定していることだが、いわゆる安定には二通りの解釈ができる。一つは変化が少ないこと、もう一つは見込みも将来性もないということである。

 またこの部署は業務が煩瑣なうえに事務の内容もさほど付加価値の高いものではなく、社内でのキャリア・アップについても昇進はほとんど期待できないのだが、ここに配属されたスタッフは営業等採算部門の野心に満ち溢れた高給取りの一線社員たちと毎日やり取りしなければならない。何の志もない人間でもなければ苦痛を感じざるを得ないだろう。しかし当時のララはまさにこの部署にうってつけの人材だった。彼女は聡明で有能で責任感が強く、しかもトップ500の企業で安定した仕事に就くことだけを望んでいたから―――新卒後三年間の不本意な職場環境のために彼女は精神的に少し疲れていたのだ。

 DB広州オフィスの受付嬢ヘレンは、ちらっと見ただけで誰もがずば抜けた美女だと目を見張り、ついでに彼女が親しみやすく楽観的で向上心のない広州出身者特有の性格の持ち主であることも知ることになる。ヘレンは工員の娘で下町育ちだった。工場労働者に見られる無欲で楽観的な生き方は彼女に人格形成に決定的な影響を与え、学生時代には進んで人助けをするという評価がついてまわった。彼女の容易に満足する性格や根拠のない楽観は神の域にまで達し、そのため彼女はその人柄に恥じないあだ名をつけられた。「天真爛漫な天然女子」、略して「テンテン」である。ヘレンは子どものころから勉強が嫌いだったが、二十歳のときにホテル管理専門学校でどうにか卒業証書を取得し、どうにか学んだ英語と生来の美貌でDBの受付に採用された。普通の女性にとっては大企業の受付嬢は出世の踏み台のようなものだ。一、二年働いたら何とか営業アシスタントくらいにはなりたいと考えている。しかしヘレンだけはもう丸三年も受付に座ったままで自分の前途について考えることもなく、聡明さと勤勉さと快活さを浪費しているのだった。「前途」という言葉はヘレンにとってはあまりに難解な文章語である。彼女はDBの受付業務を非常に気に入っており、シャングリラホテルのフロント係に比べれば少なくとも座っていられるし早番遅番の交代勤務もない分ずっとましだと思っている。

ヘレンには他にも才能があった。彼女がその気になりさえすれば、初対面の相手が目の前に現れて十五分後には母方の祖父母の家の門が南向きか北向きかまで聞き出すことができるのだ。ララは後にヘレンに向かって「それを対人関係における『親和力』というの。年度末報告で自分の長所として書くべきよ」とアドバイスした。

 出勤一日目、ララがエレガントかつゴージャスなDB社の受付で名前を告げると、ヘレンは親しみを込めて「お待ちしていたわ、どうぞおかけになって」と言いながら、オフィスの担当者に取り次いでから、慌ただしく自己紹介をした。ララはほっとして心が暖かくなるのを感じた。

 ララは壁にかかっている写真に目をとめた。米国大統領のような雰囲気のある外国人と中国政府中央の指導者が微笑みながら握手をしている。ヘレンはララが写真を見ているのに気付くと「こちらがわが社のCEO、ジョージ・ゲイツよ」と説明した。ララは内心でCEOの貫禄に満足し、自分まで得意な気持ちになった。

 ヘレンはさも自慢げに「ジョージが19XX年に中国に来たときは自社所有の飛行機に乗って来たの。飛行路線も特別に申請したのよ。DBには何機かプライベートジェットがあるけど、全部大型機ばかりで小型はないの。CEOが中国で乗った社用車のナンバーは全部001よ」と言った。ララは彼女の言うことは眉唾物だと思った。乗用車の001ナンバーはすべて地方自治体が押さえている。どうして一企業にすぎないDBの社長が乗ることができるのだろうか。CEOは政府高官でもなければアメリカ代表でもないただの会社代表にすぎないのに。ヘレンはララが自分の話を信じていないことに気付くと、一冊の豪華な雑誌をララに渡した。「DBチャイナの社内誌『CHALLENGE』よ。CEOが訪中した時の記録があるわ」。 

 ヘレンは受付のマナー訓練を受けてはいたが、天性の人懐っこさは隠しきれない。ララはヘレンのペチャクチャとよく喋るところが可愛く思え、二人はすぐに仲良くなった。

 ララは新入社員オリエンテーションで「わが社はフォーチュン500〔全米上位500社ランキング〕で二十X位にランクインしており、世界の通信業界をリードしている」という紹介を耳にしたときには誇らしさで胸がいっぱいになり思わず背筋を伸ばした。会社への忠誠心を植え付ける教育の第一歩は成功したのだ。こういった教育は洗脳する側のニーズによるものだけでなく、洗脳される者のニーズにも由来する。結婚と同様に、自分の配偶者に満足すればするほど相手を選んだ自分自身にも満足し、そして配偶者に対してより一層の忠誠を誓いたくなるのだ。

 

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