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三毛の中南米紀行 -23- 完

<修正前>

http://www.kanunu8.com/book3/7180/158742.html

ナスカの地上絵を飛ぶ 

ミシャ 

 

 

小型飛行機はやっとでこぼこの滑走路を飛び立ち、砂漠の空の上に入った。早朝の空気は澄んでいて爽やかだ。僕は心の中で思った。 

「また飛ぶんだ」 

 また飛んだ。しかし今回の空の旅はいつもと違う。三毛と僕は台湾を離れてから、以前に様々なところへ行き沢山の経験をした。 

 毎回飛行機を降りたあと僕たちはすぐに新しい土地をはっきりと見た。つまりその土地の秘密を少し明らかにすることになったのだが、それはほんの僅かでしかない。一人が一生の力を尽くしてもこの土地を理解するのは難しい。それには僕たち自身の故郷も含まれている。時間が過ぎ去るのはとても早い。僕たちはきちんと準備できていないのに、また飛行機に乗ることにした。 

 僕はパイロットの隣に座った。小型飛行機が飛び立ったとき、彼は胸の前で十字を切った。僕は心の中で思った。 

「この旅は以前のものと違う」 

彼の仕草は私に奇妙な感覚を覚えさせた。この旅の終わりは神秘に溢れているため、パイロットの仕草はむしろそのような雰囲気にふさわしいものであった。 

 「ナスカの地上絵だ!」 

三毛が言った。 

 「何の地上絵?」 

僕は聞いた。ペルーに向かう途中、三毛は僕にこの有名な古跡を知っているかどうか尋ねた。 

 「もうすぐペルーに到着するわよ。まさか南米の最大の謎も知らないの?」 

「もちろん知っているよ。マチュピチュのインカ帝国の古い城はが知っているものだろ?」 

 「違うよ。それは廃墟。インカ人が住んでいたところで唯一未解決なのは、彼らがなぜ町から出たのかよ。私が今言っていることは今日に至るまで誰も解くことができない謎なの」 

 「何の謎?」 

 「エーリッヒ・フォン・デニケンの本を読んだことがないの? もしかして彼の本を聞いたこともないの?」 

 「誰の本?」と僕は聞いた。彼女が質問するたびに自分の知識が乏しいと感じる。三毛は数えきれない本を読んできた。スペイン語の本、ドイツ語の本、もちろん中国語の本も見る。彼女は自分で英語は苦手だと言っているが、英文の作品も何も不自由なく読むことが出来る。三毛は本を読むだけでなく、見たものも忘れない。 

 彼女は本で読んだこと、見たもの、食べたもの、どこで食べたのか、誰と食べたのか、更に値段はいくらかまでも全て記憶している。 

 ある日、彼女は僕を大変驚かせた。彼女は十一年前にシカゴで食べたソーセージがいくらだったのか覚えており、しかもリマのチャイナタウンのソーセージの値段と比べたのだ 

 この旅行中、僕は何度も自分がバカだと思った。この中国人の女の子はいつも僕が読んだことがない本や、記憶にもないことを聞いてくる。 

 三毛はできの悪い生徒に教えるように丁寧に優しく教えてくれる。 

「エーリッヒ・フォン・デニケンという作家がいて、彼の著書にはこう書いてあった。私たちの世界でいまだ未解決な謎について、これらの神秘は地球以外の生命と関係があると言っていたの」 

 「私は彼の本でナスカの地上絵を初めて知ったわけではない。だけど、彼の本を読んだあとペルーに観光に行って自分の目で確かめたいと思ったの」 

 飛行機はナスカというオアシス都市の上空まで来た。 

「自分の目で確かめよう」、とこの言葉を何回も頭の中で繰り返した。ナスカはペルーの南方の大砂漠の中に位置する。 

 空から見ると、この城がまるで一つの緑の島のようで、広大な砂漠が果てしなく地平線の山の裾まで伸びており、ここだけが緑色だった。 

 僕たちの足元で一日の生活が始まったところだった。女性が井戸の隣で長い黒髪を洗っていたり、住居から炊事のがゆらゆらと立ったりしている。父親と子どもはすでに工具を持って自転車で仕事に向かい、姑と嫁は家に残っている。 

 各家々、各町全てに日常生活がある。今回の旅で、少なくともこの時間だけは僕は日常に引き戻された。 

 飛行機で町の中心を飛んだ時、下にホテルが見えた。三毛はきっとまだベッドの上で休んでいるだろう。 

 「本当におかしなことだ」、と思った。 

「彼女こそ飛行機に乗り砂漠の中の神秘的で巨大な絵を見るために、ここへ来るべきだった」 

 心の中では辛かった。三毛がこの神秘的な古跡を見ることができないからだ。彼女はこれらを南米の一番のメインだと思っており、とても興味を持っていたところなのだ 

 実際のところ彼女は飛行機にどうしても乗れなかった。ナスカに向かう途中から三毛は車に酔いはじめた。ペルーのでこぼこ道を長時間バスで走っているとき、揺れが激しかったからだ。 

 バスが前に進めば進むほど彼女は酔った。何時間も彼女は黙りこみ何も言わず片手で頭を押さえ、もう片方でお腹を押さえながら呻いた。 

「酔って死にそうだわ!」 

「次のバス停で絶対に降りよう!」 

「それはできない!」 

「だけど、体調がとてもいならもう行けないよ」 

 「大丈夫。私たちは必ずナスカに行くの」 

三毛はとても頑固に言った。 

 これが彼女の性格である。一度決断したら彼女が目的を果たすまで止めることは出来ない。 

 およそ五百キロメートル苦しんだあと、深夜に僕たちはついにナスカに到着した。幸いなことにバス停の近くにホテルがあった。その時にはすでに三毛は大分弱っていた。 

 「ミシャ、聞いて。私はもうだめ」 

が彼女を支えて部屋に入ったとき、彼女が苦しそうに言った。 

 「薬を飲んでよく休みな 

 「明日私は飛べないわ」 

三毛は無気力に言った。 

 「え?」 

僕はたった今聞いたことが信じられなかった。彼女が苦しくて疲れのあまり頭がどうかしたのかと思った。しかし、たとえ病気で苦しんでいても私の知っている三毛なら決して諦めないはずだ。 

 「自分が何を言っているか分かっているのかい。今夜はゆっくり休んで、明日また話そう」 

 「もうダメ」 

 「だけど、君が長い間待ち望んで、遠いここまでやってきたんだよ」 

は納得いかなかった。 

「見たでしょ、今日私がバスの中でどんな状況だったか。もし飛行機に乗ったら酔い死んじゃうわ」 

 「何か薬を買って防ぐことはできないかな?」 

 「前、酔い止めを飲んでみたけど、全く効かなかったの。台湾の蘭嶼(ランショ)までの短時間のフライトであっても、飛行機を降りる時には死にそうだった」 

「何のためにナスカまで来たんだよ? 絵は空からしか見ることが出来ないことは知っているだろ?」 

 「行けると思っていたけど今日のバスの状況を見ると、空では五分もいられないと思う 

三毛は深くため息をついた。 

「行ってきて。私を休ませてちょうだい!」 

 飛行機でホテルの上を通り過ぎ、僕は彼女がゆっくり休んでいるといいなと思った。まだ彼女が断念したことをにわかに信じがたい。しかし僕は分かっている。彼女の体力が限界だったために、やむを得ずこのような決断をしたことを。 

 雲一つない青い空を眺め、僕は聞きたくなった。神様はなんと不公平なのだろう。なんでこのように意思が強い女の子に限って体が弱いのだろうか? 

 あっという間に、僕たちはナスカを遠く離れていた。荒れた砂漠の上を再び二十二キロ飛んで、ようやく消滅した文明が描いた巨大な作品を見ることが出来た。 

 「あなたはどこから来たの?」 

パイロットがスペイン語で私に尋ねた。飛行機では私は三毛をずっと気にかけていたため飛行機にいる周りの人を気に留めていなかった。 

 僕に話しかけてくれた人に顔を向けると、パイロットが笑いながら挨拶をしていた。 

 「アメリカ人です」 

下手なスペイン語で答えた。 

「あなたは?」 

「私はペルー人です。ですが、私の母はイタリア人で父はフランス人です 

 僕は彼にまつわることを沢山尋ねたかったが、スペイン語で言えることがもうないので、笑うしかなかった。二人ともそれ以上話さなかった。 

 その他の座席には若い人が二人だけで、彼らはドイツ語を使って話していた。僕は第三世代のドイツ系アメリカ人であるが、ドイツ語に関しては全く分からない。 

 僕は彼らとの間にとても距離があると感じた。地上の人との距離が離れているように。話相手の対象にならなかったため、僕は考えた。もし飛行機に乗っているのが僕はなく三毛だったら飛行機の中で状況がどのように変わっていたのだろう、と 

 彼女はスペイン語とドイツ語も上手だし、彼女の利口さと活発さはなごやかな雰囲気に出来たのに。どんな人でも三毛と五分雑談すると印象に残る。彼女の話し方はバラが美しい香りを振りまくように魅力的だ。 

 一人で飛行機に乗る前には三毛がいない旅行がこんなにも物足りないということに気付かなかった。 

 砂漠を通り過ぎると、明け方の雲の切れ間から降り注ぐ光の中、石でいっぱいの不毛の地が現れた。それは静寂の美を備えていた。 

 「もうすぐ着くよ」 

パイロットが言った。 

 彼は一つ目の絵を指し、僕は急いでカメラの準備を整えた 

 僕たちのその先には果てしなく続く道のりがあり、少なくとも五百メートルの広大な土地は滑走路のように見えた。 

 ここに描かれた線はとてもなだらかで、かつ真っ直ぐで、まるで建築士の直定規を使ったようだった。 

 境界線の中、表面のところには全く石が無かった。また、とても平らで滑らかであり、周辺のでこぼこな山道と石が沢山ある砂漠とちょうど対照的だった。 

 文字すらない農業文化にこのような素晴らしい線を描くことのできる技術があったのだろうか? 

 これがデニケンが本の中で提起した問題の一つである。彼はこれについてある理論を提起してそれを答えとした。彼はナスカ文化(西暦八百年に最盛期を迎え、おおよそインカ帝国出現の四百年前)といえばこのような境界線を作るのに十分な技術がないとした。デニケンの推論は、このナスカの地上絵は地球外生物の傑作であり、彼らがこの砂漠を着陸する場所とした、という結果に至った。 

 これは一つの理論にすぎず、しかもそれが正確であるかどうかを証明するのは大変難しい。図形と線は誰が書いたのか分からないが実際、非常に多くの線が描かれている。そしてあるものは長方形であるものは三角形であり、地上絵が直角に交差しているのもある。 

 私たちは沢山の絵で溢れている砂漠を越えても、このような絵がどのようにできたか分からなかった。しかし、これはナスカの謎の半分に過ぎない。 

 パイロットは地面を指差し、英語を使って「Monkey(猿)と言った。そのあと急カーブし、たちにじっくりと砂漠の中の巨大な絵を見せた。絵は大変シンプルでまるで子どもが描いた絵のようだった。 

 砂漠の中、この地面は動物園になった。僕たちは鳥、魚、ヘビ、クジラ、クモ、犬だけでなく木のイラストまでも飛び越えた。 

 この絵が最も不思議だったのは巨大だったことだ。その中には翼の形が百メートルを越える鳥もいた。上空から見ずに、どのようにしてこの絵を描いたのだろうか? なぜこのイラストを描いたのだろうか? これは今に至ってもいまだ解明されていない謎である。 

 僕たちはとても小さな観測塔を飛び越えた。この塔はドイツの女性マリア・ライヘが建てたもので、彼女は三十年の月日をこの神秘の研究に費やした。 

 しかし、この費やした時間で彼女の出した結論は―この膨大な地上絵と動物の絵は巨大な天文歴の一部の可能性が高いということだった。彼女はこの地上絵がおよそ西暦一千年前ぐらい、ナスカ文化出現の遥か前に建設されたと考えている。 

 今日に至るまでライヘとエーリッヒ・フォン・デニケンは彼らの理論が正しいことを証明出来ずにいるため、ナスカの地上絵の謎は未だ誰にも解かれていない。 

 僕たちの飛行機は未解決な問題の上で再び旋回し、動物の絵と滑走路を最後に見せ、ようやくナスカに戻ってきた 

 僕たちは静かにこの砂漠を離れた。秘密は未だ明らかになっていない。山のほうに誰が作ったか知られていない古人の巨大な銅像だけがあり、永遠に未解決のナスカの地上絵の謎を見守っている。 

 

三毛補足 

 ミシャは文中で説明をしていないことがある。実際ナスカの地上絵に向かう前、ペルー一周の旅が六時間のバスでの長旅だった。体力が持たなかったために、空中に行くことができなかった。五百キロの車酔いのせいではなく、六十時間近く車酔いから逃れることが出来なかったためである 

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