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三毛の中南米紀行 -17-

水かけ祭り 

 私は冬服をほとんど持ってこなかった。南米は一、二月が夏だと聞いていたからまさか高原の夏にセーターが必要だとは思わなかったのだ 

 ペルーでセーターを二枚買い、コロンビアでは純毛のポンチョを一枚買ったが、バスに酔ってしまったときにセーターを入れた手さげ鞄をなくしてしまった。その後、ホテルをチェックアウトする時にポンチョも忘れてきてしまった 

 持ち物をなくせば荷物が軽くなっていい。ラパスに到着したら新しいセーターを買おうと楽しみにしていたラパスに滞在しているときは、他に着替えがなかったのでずっと現地で買った五色の手編みセーターを着続けた。夜になってセーターを脱ぐと、オルーロのカーニバルの水鉄砲で濡れたせいで下に着ていた白いブラウスにセーターの色が移っていた。このセーターはインディアンのママが簡単に染めていたため、色落ちしてしまったのだろう 

 オルーロのカーニバルは土曜日だったが、ラパスの街では日曜日も人に水をかけ祭りは、楽しい年中行事として農業中心の時代には村々の若い男女が知り合うきっかけともなっていた。水遊びを通して仲良くなるのはよくあることだ 

 この日曜日、水を大量に載せた中型ジープが街中をゆっくりと進み、沿道の見物客に水を浴びせかけたベランダの下に立ってはいけない。いつ上からバケツの水をかけられるか分からないからだ子どもたちが風船を買って中に水を入れ大きな水爆弾を作り、すれ違いざまに誰かれかまわず投げつける 

 セーターの色が落ちてしまうから、私はテルのガラスドアの内側から見物し、外に出ようとしなかったルーのリマにいたとき、三階から投げ落とされた水爆弾がちょうど頭に命中してしまった。そこで一発お見舞いされてからボリビアに来たのであるしかしホテルを出なくては「サテの娘」が食べられない。よくよく考えた結果、やはり外出することにした 

 狭い石段のある通りでは、両側の家のベランダに人が立っていて、何歩か歩いただけでスーツ姿の人がバケツ一杯分の水をかけられてびしょ濡れになった。これがお祭りの慣習なので水を浴びせてきた人を怒ることもできないしかし、そのスーツ姿の人は怒って道端の小石を掴み、ベランダの上に投げつけた私は道端で「投げて! 投げて! いいわ!」と叫んで加勢した自分はこの戦いを見物していただけなのに、顔を上げたとたんにベランダの上からバケツ一杯分の水が降ってきた。 

 「わあ! セーターの色が落ちちゃう 

 私は逃げることもできず、ただ立ちすくんで泣き叫ぶしかなかった。結局、頭からズボンまでずぶ濡れになった私は顔の水を拭いながら、ベランダの人に抗議した 

 「服の色が落ちると言ったのに! どうして?」 

 すると、もう一杯の水が降ってきて、また避けることが出来なかった今回は本当に怒った。その家の一階のドアを必死に叩き、二階に上がってケンカしようとしたが、上にいる人は「怒らないで。水をかけられたら幸運がやってくるのよ!」、と大笑いしながら言っている 

 美しい日曜日を見逃すのは惜しい。びしょ濡れになると決まっているとは言え、ミシャと水をよけながら古い町の中をあちこちと歩く姿はまるで弓の音に怯える鳥のようだ 

 水は清潔だし、しばらく日に当たっていれば服は乾くそれに、私が出会ったボリビア人は本当に感動するぐらい良い人で、郷に入れば郷に従えと思えば腹も立たない。この日は水爆弾が十数個も命中して全身がびしょ濡れになった。相手に悪意はないから笑うしかないこの水戦争は私たちの完敗だ。こちらには武器がないからだ。色落ちしたセーターはこの特別な日の記念品となった 

 

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