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三毛の中南米紀行 -14-

魔女市 

 ボリビアに来る前に読んだガイドブックには巫術街には是非くべきだと書いてあったが、ホテルから二十歩も離れていないところにその有名な街があるとは思いもよらなかった一休みして厚い上着を羽織り、さっそく街に出かけた。高原では夏の日中でも薄いセーターが必要で、夜になるともう一枚重ね着しなければならない。 

 石畳の道はを斜めに走っている。ヨーロッパ様式の古い街並みは、スペイン人が南米を植民地にした時にはるかい祖国からここに持ち込んだものだ美しい伝統建築の下にも露店が軒を連ねている。露店のママたちは花の刺繍がほどこされフリンジがついたシルクの肩掛けをまとい、丈のプリーツスカート穿いて、の太いお下げを、自分が厚く信仰しているまじない道具を売っている。このインディアン服装エクアドルやペルーとは異なっているに載せたフェルト帽は一見すると同じようだが細かな違いが見て取れた。彼らもまた独自の文化を持っているのだ。言葉を例にあげれば、ここではケチュア語以外に、アイラマ語も使う。耳に入ってくる音が極めて優しく響くもちろん、ママたちはスペイン語せる。

 ママたちが売っているもは石細工の手や足動物、それに様々珍しい種子もあったし、とりどり毛系や幸福を呼ぶという種々の縁起を入れた瓶も沢山あった。ママ嫌がられないよう、まず小動物石細工一並び買った。家畜の無事を祈るお守りだそうだ 

 「この乾た鳥は何? 

 黒い大きな目をした干からびた動物を指差してママに聞くと、彼女は笑いながら「これは鳥ではなく死産したリャマだよ」と答えた 

 「何の病気を治せるの? 誰が買うの? それとも旅行のお守り? 

 「そんなこと使わな 

笑いながらそう答えて、さらに続けた 

 「これを買って、家を建てるときに埋めれば運気が上がるんだ 

 「このカラフルな毛糸は? 

私はまた尋ねた 

 「飾り用だよ。毛系だけでは使わない 

皿に盛られた料理のような供え物もある。この店は景気がいいようで地元の人が次々に買いに来る 

 「ママ、これ御利益があるの 誰かにご祈祷をしてもらわないといけない 

は自分買った小瓶を見ながら言った。中には様々な物が入れてあり油に漬かっている。赤や緑の何か、それに一匹 

 「必要ない。左ポケットに入れておきさえすれば、幸運やってくる 

ママの言葉信じたわけではなかったが、その瓶を右ポケットに入れることもできなかった。鮮やかな色があふれごたごたとした露店は迷信というより貴重な民俗や神話を物語っているとみなしたほうがいいかもしれない。ある露店で買った古い石細工現地の人が「パチャママ」と呼ぶ大地の母である。「パチャママ」の周りには、彼女の夫、息子と娘、ヤギと蛇が配され、幾筋かの川が流れ、畑もある。それらの全てスープ皿大の石に今にも動き出しそうに生き生きとられてい聞いた話では、この大地の母の石細工家のの土に埋めて隠しておくそうだそして大地の母の誕生日りだし、油をかけ拝み、また土の中に埋める。そうすると大地の母は家や土地や家畜が豊かに富むように見守ってくれるのだという 

 こういう露店は、小物をひとつ買う度に少しずつの希望を与えてくれる。その期待だけで代金を払価値がある露店街を行きつ戻りつ歩くうちにママたちは私に金運幸運恋愛運そして健康と平和象徴を売ってくれママたちは代金を受け取り、私は人生に必要な全ての希望を手に入れた。そ考えると、私の儲けのほうがずっと大きい。本当のことを言えば、私のように篤い信仰心を持っている人間は巫術にすがる必要はないのだが、ちょっとした遊び心で、民俗を体験する楽しさをこの小さい露店で得ることができる中南米では巫術だんだん見かけなくなっているが、ボリビアの市場で堂々と商売をしている姿を見たのは新鮮な出来事だったここで非常に興味深かったのは、博物館に「巫術展示室」があったことだ。展示物は外で売ってる物とほぼ同じだが、説明より分かりやすかった博物館には呪物についての詳しい説明もあったが、私には恨みを抱く人もないので、人を呪う物には興味がなく、知りたいとも思わなかった 

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